「製品1個あたりのCO2を出してほしい」と取引先から求められたとき、何から手をつければよいのでしょうか。この記事では、設備別の電力実績と排出係数、生産数を組み合わせて按分する考え方を、一次データの整備から検証・運用まで通して整理します。
ここ数年、取引先や親会社から「納入する製品のCO2排出量を教えてほしい」「サプライチェーン全体の排出量を集計したいので、御社の分を提出してほしい」といった依頼が、製造・物流の現場に届くようになりました。これまで電気代の総額は経理が把握していても、それを「製品1個あたり」に落とし込んだ経験がない、という現場は少なくないと考えられます。最初の一歩でつまずくのは、多くの場合ここです。
背景には、電力コストの高騰、省エネ法やGX(グリーン・トランスフォーメーション)に関わる制度的な要請、そして取引先からの開示要求という三つの圧力があります。カーボンニュートラルという大きな言葉は経営・制度の文脈で語られがちですが、現場に降りてくると「うちの製品1個で何g-CO2なのか」というきわめて具体的な問いに変わります。この落差に戸惑う担当者は多いはずです。
CO2算定というと排出係数を掛ける計算の話に見えますが、実務でボトルネックになるのはむしろ手前の「電力を設備単位で把握できていない」点です。受電点の総電力はスマートメーターで分かっても、どのラインのどの設備が何kWh使ったかは、多くの工場で計測されていません。総額を製品数で割る大雑把な按分は作れても、改善につながる粒度にはなりにくいのが実情です。まずは製品1個あたり電力の算出という土台があって、その上にCO2算定が乗る、という順序を意識したいところです。
この記事では、製品1個あたりCO2を「設備別の電力実績 × 排出係数 ÷ 生産数」で按分して考える道筋を、Why(なぜ今)→What(何を測り紐付けるか)→How(どう改善・検証・運用するか)の順で整理します。押さえておきたいのは、これは一度出して終わりの数字ではなく、電力の一次データの整備を起点に継続運用していく取り組みだ、という視点です。
算定式に入る前に、いくつかの前提を決めておかないと数字がぶれます。第一に「どの範囲の排出を対象にするか」です。一般に企業の温室効果ガス算定では、自社が直接燃焼させる燃料由来(直接排出)と、購入した電力・熱の使用に伴う排出(エネルギー起源の間接排出)、さらにサプライチェーン上流・下流の排出を区別して扱う考え方があります。製品1個あたりを求める文脈では、まず自社工程で消費する電力・燃料に焦点を当てるのが着手しやすいと考えられます。
電力の排出係数は、電力会社や供給メニュー、年度によって値が異なりえます。燃料(都市ガス・LPG・重油など)にもそれぞれ係数があります。ここで重要なのは、係数は固定の物理定数ではなく制度・実績に基づいて改定されうる値だという点です。どの係数を採用するか(例えば全国平均か、契約する電力メニュー固有の値か)で結果が変わります。採用する係数の出典・年度・適用範囲は、環境省や経済産業省など所管省庁の最新の公表資料でご確認ください。
製品が単一品種で工程も単純なら、工場全体の電力を総生産数で割るだけでも一次的な目安にはなりえます。しかし多品種・多工程になると、製品ごとに通る設備も稼働時間も違うため、総量の均等割りでは実態と乖離しやすくなります。ここで効いてくるのが、設備別・工程別に電力を切り分けて按分するという発想です。原単位の考え方そのものはエネルギー原単位とはの整理も参考になります。
論点3として、生産数の定義もそろえておく必要があります。良品数か投入数か、仕掛品や不良品の扱いをどうするか。CO2を1個あたりに割り戻すときの分母がぶれると、比較も改善判断も成り立ちません。分子(排出量)の精緻化に気を取られて分母(生産数)の定義を曖昧にする、というのはよくある落とし穴です。
考え方の骨格はシンプルです。まず工程・設備ごとに、期間内の電力使用量(kWh)に電力の排出係数(kg-CO2/kWh 等)を掛けて、その工程の期間排出量を求めます。燃料を使う工程では、燃料使用量に燃料側の係数を掛けた分を足します。こうして得た「対象製品が通った工程の合計排出量」を、その期間の対象製品の生産数で割ると、製品1個あたりCO2(g-CO2/個 など)の目安が出ます。
製品1個あたりCO2 = Σ(工程iの電力kWh × 電力排出係数 + 工程iの燃料使用量 × 燃料排出係数)÷ 対象製品の生産数。ここでΣは、その製品が通る全工程についての合計を意味します。単純ですが、実務では「工程iの電力kWh」を実測できているか、「その製品だけが使った分」をどう切り出すか、という二点で難易度が跳ね上がります。数値例を作る場合も、あくまでモデル前提の一例であり、実際の値は現物・現場での計測による検証が前提になります。
多くの工場では、コンプレッサー・空調・照明・受変電といった用役(ユーティリティ)設備を複数製品で共用しています。これらは特定製品に直接ひも付きません。そこで、稼働時間比・生産数比・専有設備の電力比など、なんらかの配賦基準を決めて按分することになります。どの基準を選ぶかで数字が動くため、基準の根拠を記録し、社内で合意しておくことが後々の説明可能性につながると考えられます。
待機電力の扱いも論点です。生産していない時間帯にも設備や用役が消費する電力は、製品に直接由来しないように見えて、事業を回すために必要なコストでもあります。これを製品に配賦するのか、間接分として別建てにするのか。方針を最初に決めておかないと、月ごとに算定ルールが揺れて比較不能になりかねません。
按分の精度は、結局のところ電力の一次データの粒度で決まります。受電点1点しか測っていなければ、どんなに巧妙な配賦ロジックを組んでも仮定の積み重ねになります。逆に主要設備にクランプ式の電流センサーやCTを入れて設備別のkWhが取れれば、按分は「測った値の割り当て」に近づき、説明力が増します。まずどの設備を実測するかの優先順位づけが、設計の第一歩になると考えます。
すべての設備をいきなり計測するのは費用も工数もかかります。現実的には、消費電力の大きい設備(大型モーター、加熱・乾燥炉、コンプレッサー、空調など)や、製品ごとに稼働差が大きい設備から着手すると、少ない計測点で全体の説明力を高めやすいと考えられます。パレート的に上位の数設備で総電力の大半を占めるケースは多く、まずそこを押さえる発想が有効です。
CO2を製品1個に落とすには、電力の時系列データと、生産実績(いつ・どの製品を・何個作ったか)を時刻で突き合わせる必要があります。生産数はMES(製造実行システム)やPLC、あるいは現場の日報にあることが多く、これらと電力ログを同じ時間軸で結合できるかが設計の勘所です。ここが分断されていると、電力は測れているのに製品に割り当てられない、という状態に陥ります。
こうしたデータ結合を工場内で完結させる基盤として、エッジAIによる工場内データ処理のように、電力・生産・センサーのデータをローカルで収集・突き合わせるアプローチがあります。機微な生産データを外部に出しにくい現場でも、一次データの整備と按分計算を工場内で回せる設計を取りやすくなると考えられます。
算定式を組んで一度数字を出しても、それが正しいかどうかは別問題です。設計段階では、設備別電力の合計が受電点の総電力とおおむね整合するか(差分は用役・損失・未計測分で説明できるか)を突き合わせる検算が有効です。合計が合わない場合、計測漏れや係数の取り違え、時刻ずれなどが疑われます。この「合計との照合」を運用の定例チェックに組み込むと、数字の信頼性を保ちやすくなると考えます。
CO2を製品1個あたりで見える化する本当の価値は、報告書を作ることではなく、どの工程・どの製品の排出が大きいかを特定して改善に回すことにあります。例えば待機時の用役電力が想定より大きければ運用の見直し余地があり、特定製品の原単位が突出していれば工程条件や設備効率を疑う手がかりになります。見える化で止めず、改善→再計測→効果検証のループを回すことが、継続する取り組みの条件になると考えられます。
算定と報告の負担は決して小さくありません。ここでローカルLLMやエッジAIが支援になりうるのは、収集した電力・生産データから月次のCO2レポートの下書きを生成したり、異常な原単位の変動を検知して「先週より特定ラインの原単位が上がっています」といった気づきを現場語で提示したりする領域です。ただしAIが出す数字も、元データと係数が正しいことが前提であり、最終的な数値の妥当性は人が現場で確認する必要があります。AIは計算の代替ではなく、確認と説明の補助と位置づけるのが誠実だと考えます。
CO2算定は制度・経営の文脈とも接続します。開示や中長期の削減計画といった背景については製造業のカーボンニュートラルとESGもあわせて整理しておくと、現場の数字づくりが何のためのものかを見失いにくくなると考えられます。
実際に手を動かすと、計算式そのものよりも前提や運用でつまずくことが多いものです。着手前に知っておきたい落とし穴を挙げます。
これらはどれも、事前に方針を決めて記録しておけば避けられるものが多いと考えられます。逆に言えば、算定の「計算部分」は難しくなく、難しいのは前提の合意とデータ整備、そして継続の仕組みづくりだ、と捉えておくと見通しが立ちやすくなります。
最後に、現実的な始め方を段階で整理します。第一段階は、対象製品と対象設備を絞り、消費電力の大きい主要設備の電力を実測できる状態を作ることです。ここで受電点の総電力との照合ができれば、計測の抜けを把握できます。第二段階で、電力データと生産数を時刻で紐付け、工程別の排出量から製品1個あたりCO2の試算を出します。
第三段階では、試算結果を現場感覚と突き合わせ、按分基準・分母定義・待機電力の扱いを調整します。数字が現場の肌感と合わない箇所は、計測漏れか按分ロジックのどちらかを疑う手がかりになります。第四段階で、月次の算定・報告を定例化し、改善→再計測→効果検証のループに乗せます。ここまで来て初めて、CO2算定が「一度きりの提出物」から「継続的な管理指標」に変わると考えられます。
どの段階でも共通するのは、机上の推計より現物の計測を起点にする方が、後の説明可能性が高いという点です。まずは小規模PoCから始める相談のように、対象設備を数点に絞って電力を実測し、按分ロジックの妥当性を小さく検証してみるのが、失敗の少ない出発点になると考えます。そこで得た手触りをもとに、範囲を段階的に広げていくのが現実的です。判断に迷う点があれば、まずは相談するところから始めていただければと思います。
基本は、工程・設備ごとの電力使用量に電力の排出係数を掛け(燃料があれば燃料分も加算)、対象製品が通る工程の排出量を合計し、その期間の生産数で割って按分する、という考え方になると考えられます。難所は計算式より、設備別の電力を実測できるか、生産数と時刻で紐付けられるかにあります。採用する排出係数の出典・年度は所管省庁の最新資料でご確認ください。
契約する電力メニュー固有の係数を使う場合と、全国平均等の係数を使う場合があり、目的や報告先の要請によって適切な選択が変わりうると考えられます。いずれも年度で改定されうるため、固定値と考えず、出典・年度・適用範囲を確認して採用値を記録しておくことをおすすめします。具体的な係数と適用範囲は、環境省・経済産業省など所管省庁の最新の公表資料でご確認ください。
受電点の総電力を生産数で割る形で、一次的な目安を出すことは可能だと考えられます。ただし多品種・多工程では実態と乖離しやすく、改善の手がかりにはつながりにくい面があります。主要設備から実測を進めると按分の説明力が高まると考えられるため、まず消費電力の大きい設備を優先して計測する進め方が現実的です。
コンプレッサーや空調などの用役設備は特定製品に直接ひも付かないため、稼働時間比や生産数比といった配賦基準を決めて按分することになると考えられます。待機電力も、製品に配賦するか間接分として別建てにするか、方針を最初に決めておくことが重要です。基準と根拠を記録して社内で合意しておくと、後の説明可能性を保ちやすくなります。
設備別電力の合計が受電点の総電力とおおむね整合するか(差分が用役・損失・未計測分で説明できるか)を突き合わせる検算が有効だと考えられます。数字が現場の肌感と合わない場合は、計測漏れや按分ロジック、時刻ずれなどを疑う手がかりになります。あくまで最終的な妥当性は現物・現場での確認が前提になると考えます。
製品1個あたりCO2の算定は、電力の一次データの整備から始まります。いきなり全社を精緻化するより、主要設備を数点に絞って実測し、按分ロジックを小さく検証するのが確実な出発点になると考えます。現場の状況に合わせた計測・データ連携の設計をご一緒します。
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