PHARMA / FILL INSPECTION

錠剤・カプセルの充填数と異品混入を、計数と品質で同時に検査するAI

PTPシートやボトル充填での錠剤・カプセルの計数、欠錠・割れ錠・異色錠混入の検出をどう設計するか。単なる数取りではなく、医薬充填特有の「数と品質の同時検査」をどう構築するかを、撮像設計から運用・バリデーションの観点まで整理して解説します。

2026-06-25 / 最終更新 2026-06-25 / 監修:嶋野(元キーエンス画像処理事業部 開発エンジニア)/ 読了時間:約14分
01
医薬の充填検査は「正しい数が入っているか」と「入っている錠剤・カプセルそのものが正常か」を同時に問われる点が、一般的な計数(カウント)用途と本質的に異なると考えます。PTPのポケット単位・ボトル単位それぞれで、計数と品質を切り分けつつ統合する設計が前提になります。
02
欠錠・過剰・割れ錠・欠け・異色錠(異品種)混入は、それぞれ撮像条件と判定ロジックが異なります。一律のしきい値では取りこぼしが起きやすく、不良モードごとに撮像と特徴量を分けて設計することが、見逃しと過検出のバランスを取る鍵になると考えられます。
03
医薬分野は判定根拠の説明可能性とバリデーション(IQ/OQ/PQ的な考え方)が重みを持つ領域です。導入可否は、自社製品の現物・実ラインでの検証を通じて確かめることが前提であり、元キーエンス画像処理事業部出身の監修者とともに条件を詰めていく進め方を推奨します。
― 目次
  1. なぜ難しいか
  2. 不良モードの整理
  3. 撮像設計
  4. 計数と品質の統合
  5. 運用とバリデーション
  6. よくある落とし穴
  7. 進め方と検証
  8. 関連記事・関連ソリューション
  9. よくある質問
― 01 / 背景と課題

なぜ「錠剤の数を数える」だけでは終わらないのか

錠剤やカプセルの充填工程に検査を入れたいという相談は、しばしば「ポケットに錠剤が入っているか数えたい」という一文から始まります。しかし現場で要件を分解していくと、求められているのは単純な計数ではなく、「規定数が入っていること」と「入っている一錠一錠が正常品であること」を同時に保証することであるケースが多いと考えます。医薬品では、数の過不足はそのまま用法用量に直結し、割れや欠け、異品種の混入は品質そのものの問題になるためです。

一般的な物品のカウント用途であれば、対象が「ある/ない」を数えれば足りる場面が少なくありません。これに対し医薬充填では、たとえば10錠入りのPTPシートに対して「10個ある」ことを確認するだけでは不十分で、その10個のうち1つが割れていないか、色や形が他と違わないか、すなわち別品種が紛れ込んでいないか、までが検査範囲に入ってくる可能性が高いと考えられます。Nsightでは既存のカウント・計数系の取り組み(ケース計数コンベヤ計数)と本テーマを役割分離して扱っており、その理由がここにあります。

「計数」と「品質」は別レイヤーの検査である

計数は基本的に「個数が規定値と一致するか」という離散的な判定です。一方で割れ錠・欠け・異色錠の検出は、一錠ごとの形状・色・テクスチャを評価する連続的・分類的な判定になります。この2つは要求される撮像条件も、判定アルゴリズムも、許容のチューニング軸も異なるため、同じ仕組みで一括処理しようとすると、どちらかの精度が犠牲になりやすいと考えます。

たとえば計数を確実にするには「個体が分離して見えること」が重要ですが、割れ錠の検出には「割れの断面やエッジが陰影として現れること」が重要で、両者で最適な照明角度が一致しないことがあります。設計の出発点として、まず不良モードを列挙し、それぞれに必要な撮像と特徴量を割り当てるという分解が有効だと考えられます。

PTPとボトルで前提が変わる

充填形態によっても難所が変わります。PTP(プレススルーパック)は各ポケットに1錠ずつ入るため位置がほぼ固定され、ポケット単位で計数・品質を切り出しやすい一方、透明フィルムやアルミ箔の反射、ポケットの曲面による歪みが撮像を難しくします。ボトル充填は数十〜数百錠がランダムに積層するため、重なりによる隠れ(オクルージョン)が計数の最大の敵になります。同じ「錠剤の充填検査」でも、この前提差を踏まえないと要件が噛み合わないと考えます。

― 02 / アプローチ

検出すべき不良モードを分解して定義する

検査設計を始める前に、何を不良とみなすかを現場と擦り合わせて言語化することが、後工程のブレを防ぐうえで重要だと考えます。錠剤・カプセル充填で典型的に挙がる不良モードを、計数系と品質系に大別して整理します。なお、ここで挙げる分類はあくまで一般的な目安であり、実際にどこまでを検査対象とするかは製品仕様と規格に依存します。

計数系の不良

品質系の不良

不良モードごとに「見える条件」を割り当てる

列挙した不良モードに対し、それぞれ「どう撮れば差が出るか」を割り当てていきます。たとえば異色錠は色情報(カラー画像・特定波長照明)が効きやすく、割れ錠はエッジ強調や斜光が効きやすい、といった具合です。この割り当て表を作っておくと、後述の撮像設計と判定ロジックの設計が一貫し、「なぜこの照明なのか」を説明できる状態になります。医薬分野では、こうした判定根拠の説明可能性が運用上の安心材料になると考えます。関連する考え方はVLMと深層学習の使い分けの観点とも通じます。

― 03 / 設計

計数を成立させる撮像と、品質を見抜く撮像

充填検査の成否は、判定アルゴリズム以前に撮像設計でほぼ決まると言ってよいほど、撮像の比重が大きいと考えます。ここでは計数を成立させる撮像と、品質欠陥を見抜く撮像を分けて整理します。いずれも一般論であり、最終的な条件は現物での検証で確定させる前提です。

PTPの撮像:反射と曲面歪みへの対処

PTPは透明フィルム(PVCやアルミラミネート)越しに錠剤を撮ることが多く、フィルム表面の正反射が画像にハレーションを生みやすいと考えられます。照明の角度を工夫してフィルムの正反射を撮像系から外す、拡散照明で面全体を均一に照らす、といった対処が一般的です。ポケットが曲面のため、周辺ポケットほど錠剤が斜めから見える歪みが出ることもあり、テレセントリック寄りの光学系やポケット位置ごとの基準学習が有効な場合があると考えます。アルミ箔シール側の検査(封止)は別論点であり、寸法検査の基礎とも視点が異なります。

ボトルの撮像:重なりとの戦い

ボトル充填の計数では、錠剤が積層して下層が隠れることが最大の課題です。充填前の整列段階(フィーダー上やスリット通過時)で1層に展開して数える、複数視点や落下中の連続フレームで取りこぼしを補完する、といったアプローチが考えられます。最終ボトル状態だけで内部の全錠を数え切るのは原理的に難しい場面があるため、どの工程で計数の確からしさを担保するかを工程設計と合わせて決めることが現実的だと考えます。

異色・異品種を見抜く色設計

異色錠・異品種混入は、人の目には一見わかりにくい色差のこともあります。カラーカメラでの色空間評価に加え、製品によっては特定波長の照明で素錠とコーティングの差を強調する、といった工夫が効く可能性があります。刻印(識別マーク)の有無・形状を読み取って品種を照合する方向もあり、これはエッジVLM-OCR的な読み取りの応用とも接続しうると考えます。ただし刻印は浅く、コーティングで埋もれることもあるため、読み取り可否は現物で見極める必要があります。

割れ・欠けを浮かび上がらせる陰影設計

割れ錠・欠け錠は、欠損部のエッジや断面が周囲と異なる陰影を作ることで検出できる場合があります。斜光(ローアングル照明)で凹凸を強調する、明視野と暗視野を切り替える、といった照明設計が候補になります。微小な欠けは正常な打錠ばらつき(面取りやバリ)との区別が難しく、過検出と見逃しのバランス調整が必要になると考えられます。この調整は数値だけでは決められず、現場の良品・不良品の実サンプルを見ながら詰めるのが堅実だと考えます。

― 04 / 設計

計数と品質を1つの判定に束ねるロジック設計

撮像で必要な情報が取れたら、計数結果と品質判定を統合して「このシート/このボトルは合格か」を出す段階に入ります。ここでの設計思想が、現場での使いやすさと信頼性を左右すると考えます。

個体検出 → 個体評価 → 集約という流れ

実装上は、まず画像から錠剤・カプセルの個体を検出・分離し(インスタンス単位の切り出し)、次に各個体に対して品質ラベル(正常/割れ/異色 など)を付け、最後にシート・ボトル単位で「個数」と「全個体が正常か」を集約する、という三段構成が扱いやすいと考えられます。この構成なら計数誤りと品質誤りを別々にログ化でき、どのモードで不良が出たかが追跡しやすくなります。

PTPはポケット基準、ボトルは個体基準

PTPはポケット位置が既知なので、「各ポケットに正常な1錠があるか」をポケット単位で判定するのが自然です。空ポケット=欠錠、ポケット内の個体が品質NG=品質不良、と切り分けられます。ボトルは位置が不定なので、検出した個体群に対して総数と各個体の品質を評価します。同じ製品でも形態でロジックの組み方が変わる点は、要件定義の早い段階で合意しておきたいところです。

判定の説明可能性を残す

医薬分野では「なぜNGにしたのか」を後から説明できることが、運用と監査の両面で価値を持つと考えます。NG時にどのポケット・どの個体が、どの不良モードで弾かれたかを画像付きで記録できる構成にしておくと、現場での原因究明や工程改善につながりやすいと考えられます。判定をブラックボックスにせず、根拠を残す設計を推奨します。関連してエッジとクラウドの使い分けは、データ保全や応答速度の観点で参考になると考えます。

― 05 / 運用

多品種・段取り替え・バリデーションへの備え

検査が技術的に成立しても、日々の運用に乗らなければ意味がありません。医薬充填ラインでは多品種・小ロット化が進む傾向もあり、段取り替えのたびに検査条件を切り替える負担をどう抑えるかが、現場定着の分かれ目になると考えます。

品種切り替えの段取りを軽くする

錠剤の色・形・サイズ・刻印、PTPのポケット配置は品種ごとに異なります。品種ごとの検査レシピ(撮像条件・判定パラメータ)を登録しておき、製造指示と連動して呼び出せる仕組みにしておくと、切り替え時の人手設定を減らせると考えられます。レシピと製造ロットの紐付けは、後述のトレーサビリティにも効いてきます。

異品種混入は「前ロット残留」を疑う

異色錠・異品種混入の発生経路として、段取り替え時の前品種の残留(ホッパーやシュートへの取り残し)はよく挙げられる懸念だと考えます。検査AIは最後の砦として混入を捉えうる一方、清掃・ライン確認(ラインクリアランス)という運用側の対策と組み合わせてこそ効果が高まると考えられます。検査だけで品質を作るのではなく、工程と検査の役割分担を整理することが重要だと考えます。

バリデーションと記録

医薬品の製造では、設備・システムの妥当性確認(一般にIQ/OQ/PQと呼ばれる考え方)や記録の保全が重みを持ちます。検査AIについても、既知サンプルでの検出性能の確認、判定ログの保存、再現性の担保といった観点が求められる可能性が高いと考えます。導入にあたっては、こうした要件を満たせる構成かを早期に確認しておくことが、後戻りを避けるうえで有効だと考えられます。トレーサビリティの設計は工場データ基盤の考え方とも接続します。

運用負荷とアラートの設計

過検出が多いと現場はアラートを軽視しがちになり、本当の不良を見落とすリスクが高まります。逆にしきい値を緩めすぎれば見逃しが増えます。立ち上げ初期は判定ログを蓄積しながら、現場と一緒に許容を調整していく運用が現実的だと考えます。稼働状況の可視化はモニタリングの観点も合わせて検討する価値があると考えられます。

― 06 / 落とし穴

充填検査AIで陥りやすい落とし穴

これまでの相談や検証を通じて、錠剤・カプセル充填の検査でつまずきやすいポイントには一定の傾向があると考えます。導入を検討する段階で意識しておくと、PoCの空振りを避けやすくなると考えられます。

これらはいずれも、技術というより「要件の立て方」と「工程との分担」に起因するものが多いと考えます。検査AIを単独の万能装置とみなさず、ライン全体の中で役割を定義することが、結果として精度と定着の両方に効いてくると考えられます。

― 07 / ロードマップ

導入の進め方 — 現物検証を起点に

最後に、錠剤・カプセル充填の検査AIをどう立ち上げていくかの進め方を整理します。結論として、机上の仕様だけで可否を決めず、自社製品の現物・実ラインでの検証を起点に段階的に確かめていくことを推奨します。医薬充填は不良モードが多様で、製品・フィルム・刻印の個別差が大きいため、汎用の答えをそのまま当てはめにくい領域だと考えるためです。

ステップ1:不良モードと要件の言語化

まず何を不良とし、計数と品質のどこまでを検査範囲に含めるかを現場と合意します。発生頻度・流出時の影響度で優先順位を付け、撮像と判定の設計に落とせる粒度まで分解します。この段階での擦り合わせが、後の手戻りを最も大きく減らすと考えます。

ステップ2:撮像可否の現物検証(PoC)

実サンプル(良品・各種不良品・模擬不良)を用いて、各不良モードが画像上で分離できるかを確認します。ここで「そもそも差が画像に出るか」を見極めることが、計数精度や判定精度の議論よりも先に来ると考えます。PoCの設計や落とし穴はPoCが失敗する理由も参考になると考えられます。撮像可否の確認はPoC支援の枠組みで進めることができます。

ステップ3:判定ロジックと運用設計

撮像で情報が取れる見通しが立てば、計数と品質の統合ロジック、レシピ管理、ログ・トレーサビリティ、アラート設計へと進みます。ここでバリデーションの考え方や記録要件を織り込んでおくことで、本番展開時の負担を抑えられると考えます。エッジでの実行構成はAI画像検査の枠組みで検討できます。

ステップ4:段階展開と継続改善

一気に全ラインへ広げるのではなく、まず1ライン・1品種で安定運用を確認し、判定ログを蓄積しながら許容を調整して横展開していく進め方が堅実だと考えます。発生頻度の低い不良は時間をかけてサンプルを集め、検証を継続することで確からしさを高めていくのが現実的だと考えられます。

監修者とともに、現場で確かめる

Nsightには元キーエンス画像処理事業部出身の監修者が在籍しており、照明・光学・判定設計の現場知見を踏まえて条件を一緒に詰めていく進め方を取っています。本稿で述べた内容はあくまで一般的な考え方であり、最終的な可否や精度はお客様の製品とラインでの現物検証を通じて確かめることが前提だと考えます。まずは小さく試し、見える化された根拠をもとに次の判断をしていく——そうした進め方を推奨します。隣接領域の検査については食品工場の検査自動化の整理も視点の参考になると考えられます。

― 08 / 関連

関連記事・関連ソリューション

― 09 / FAQ

よくある質問

錠剤を数えるだけなら、一般的な計数システムでよいのではないですか?

計数だけが目的であれば一般的な計数の仕組みでも対応しうると考えます。ただし医薬充填では、規定数の確認に加えて割れ錠・欠け・異色錠(異品種)混入といった品質の同時検査が求められる場面が多いと考えられます。求める検査範囲が「数」だけか「数と品質」かによって設計が変わるため、まず要件の切り分けをおすすめします。

PTPシートとボトル充填では、検査の難しさは違いますか?

前提が大きく異なると考えます。PTPはポケット位置が固定で個体を切り出しやすい一方、透明フィルムの反射や曲面歪みが撮像の課題になります。ボトル充填は錠剤が積層して下層が隠れるため、最終状態だけで全錠を数え切るのが難しい場面があります。どの工程で計数を担保するかを工程設計と合わせて検討することが現実的だと考えられます。

異品種(異色錠)の混入はどの程度検出できますか?

色差が画像上に十分現れる場合は外観での検出が期待できると考えますが、色差が小さい品種同士や、刻印が浅くコーティングで埋もれる場合は読み取りが難しいこともあります。検出可否は製品の組み合わせに依存するため、自社製品の現物サンプルでの検証を通じて見極めることを前提とお考えください。

医薬品なのでバリデーションや記録が必要ですが、対応できますか?

医薬分野では妥当性確認(一般にIQ/OQ/PQと呼ばれる考え方)や判定ログの保全が重みを持つと認識しています。既知サンプルでの性能確認、判定根拠の記録、再現性の担保といった観点を早期に織り込んだ構成を推奨します。具体的な要件は製造所のSOPや規格に依存するため、現場の要求に合わせて一緒に詰めていく進め方になると考えます。

導入可否はどう判断すればよいですか?

本稿の内容は一般的な考え方であり、最終的な可否や精度はお客様の製品とラインでの現物検証を通じて確かめることが前提だと考えます。まず不良モードと要件を言語化し、実サンプルで撮像可否を確認するPoCから始める段階的な進め方を推奨します。元キーエンス画像処理事業部出身の監修者とともに条件を詰めていくことが可能です。

― REVIEWED BY
嶋野(元キーエンス画像処理事業部 開発エンジニア)
キーエンス画像処理事業部での実務経験をもとに、産業用カメラ・照明・光学系・検査装置の開発に従事し、現在はNsightの技術コンテンツ監修を担当。プロフィール詳細 →

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