REVISION CONTROL

図面の旧版誤使用を防ぐ|改訂連絡から現場・協力会社までの有効版確認フロー

「改訂連絡はメールで送ったはずなのに、現場は旧版のまま加工していた」。金属加工・自動車部品・装置組立・板金のように貸与図面で仕事をする工場では、同じ図番で版数の違う図面が社内フォルダ・メール・紙・協力会社に混在し、どれが有効版かの判断が人の記憶と勘に委ねられることがあります。この記事は、生産技術・品質保証・製造管理・購買(協力会社への図面配布担当)を対象に、有効版をどう確定し、改訂連絡から現場・協力会社まで届けるかという運用を、AIに任せられる範囲と人が確定する範囲の線引きとあわせて整理します。

2026-09-21 / 最終更新 2026-09-21 / 読了時間:約15分
01
旧版誤使用は一つの原因だけで起きるとは限りません。改訂連絡の見落とし、フォルダに残る旧版、回収されない紙図面、協力会社への展開の遅れ、受領確認の不在——複数の穴が重なって起きます。原因を一つに絞ると、他の穴を見落とします。
02
仕組みを入れる前に、有効版をどう定義し、誰が確定するかを決めることが先です。有効版は会社全体で一つに決まるものではなく、図番×版数×客先×オーダー/ロットの単位で決まります。図番×版数×発行日×適用開始日×適用オーダー/ロット×改訂理由の区分×発行元×受領記録を1枚にした有効版台帳と、受領・配布・現場参照・協力会社・不一致検知までの経路を先に設計します。図面管理システム(PDM)と規律ある手順が既にあり、徹底されている会社では、新しい仕組みを足すよりその運用を点検する方が優先です。
03
AIが担えるのは、表題欄・改訂欄の読み取り、版の差分候補の提示、旧版参照の疑いを出典付きで示すところまでです。どの版が有効かの確定、改訂の適用範囲の判断、出荷停止やロールバックの判断は人が行います。版の混在に気づいたら、原因究明より先に、現場の安全手順に従って責任者の指示で該当作業を止め、影響範囲を確認し、エスカレーションします。
― 目次
  1. 背景と課題
  2. 旧版誤使用の原因は一つとは限らない
  3. 有効版台帳の設計
  4. 改訂連絡の受領・配布・現場参照
  5. 発行日・適用開始日と適用オーダー・ロット
  6. 紙図面と協力会社への配布
  7. 不一致発生時の停止・エスカレーション
  8. AIと人の分担、PDM・既存手順で足りる場合
  9. 進め方
  10. よくある質問
  11. 関連記事・関連ソリューション
― 01 / 背景と課題

「改訂連絡は出した」のに、なぜ旧版が現場に残るのか

貸与図面で加工・組立を請け負う工場では、客先から図面の改訂連絡が届いたあと、社内のフォルダ更新、現場への周知、協力会社への再配布という一連の作業が発生します。この一連の作業のどこか一箇所でも抜けると、同じ図番でありながら版数だけが違う図面が、社内と社外に同時に存在する状態が生まれます。現場の担当者が最初に目にした図面が最新版とは限らず、協力会社の手元にある紙の図面はさらに古いことがあります。

この記事が扱うのは、図面の版数が客先から届いた改訂によって切り替わったあと、その改訂が社内と協力会社の隅々まで正しく行き渡り、旧版を参照する経路を断つという運用です。図面が届いてから見積の計算に入るまでの準備工程(図番・版数・材質・公差の抽出や類似加工実績の検索)は図面から過去の類似加工実績が探せない|図番・版数・材質・公差の抽出と見積準備をAIで整理するで扱っており、本記事はその後工程——生産・品質保証の現場で有効版をどう確定し、維持するか——に絞ります。

また、取引先図面を外部のAIサービスに送れないという制約のもとで、社内完結の検索・照合構成をどう設計するかという着手前の論点は取引先の図面・仕様書を外部AIに送れない|社内ネットワークでAI検索・照合を始める前の設計と確認で扱っています。本記事はその構成が決まったあと、あるいは構成の有無にかかわらず必要になる、有効版の運用そのものを対象にします。仕組みを入れるかどうかにかかわらず、有効版の定義が運用に無ければ、旧版誤使用は形を変えて起き続けます。

― 02 / 複合原因

旧版誤使用の原因を一つに絞ると、残りの穴を見落とす

旧版誤使用の事故が起きたあと、「改訂連絡の周知が不足していた」という一言で片づけられることがあります。しかし経路をたどると、一つの原因に見えて複数の穴が重なっていることがあります。原因を一つに絞ろうとすると、残りの穴を見落とし、同じ事故が形を変えて再発します。

起こりやすい原因具体的に起きること見落とされやすい点
改訂連絡の見落としメールが担当者の受信箱に埋もれる、休暇中に届いて誰も引き継がない「送った」ことと「読んで理解し、行動した」ことは別
フォルダの新旧混在同じフォルダに新版と旧版が並び、ファイル名の命名規則が担当者ごとに違う検索や日付ソートで最初に出てくるファイルが最新版とは限らない
紙図面の回収漏れ現場の作業台や治具に貼られた紙の図面が改訂後も差し替えられない紙は電子データの更新が反映されず、能動的に回収・差し替えるまで旧版のまま残り続ける
協力会社への展開ラグ社内の改訂対応が終わったあと、協力会社への再配布が後回しになる協力会社は社内フォルダを見られないため、配布されない限り旧版のままになる
受領確認の不在配布した記録はあるが、相手が受け取り版数を認識したかの確認がない送付記録と受領確認は別物。送付記録だけでは「届いていない」可能性を消せない
適用範囲の誤解適用開始日は過ぎているが、対象は次ロットからという条件を見落とし、当該ロットにも新版を適用してしまう(逆に、新版を適用すべきロットに旧版を使ってしまう場合もある)発行日・適用開始日と、適用されるオーダー・ロットの範囲は別に確認する(05節)

これらは同時に起こり得ます。改訂連絡を見落とした担当者が、たまたまフォルダに残っていた旧版を開き、そのまま協力会社にも旧版で発注をかける——一つずつは小さな穴でも、重なれば事故になります。次節からは、この穴を塞ぐための運用を、有効版の定義から順に見ていきます。

― 03 / 有効版台帳

「どれが有効版か」を人の記憶に頼らない台帳を持つ

有効版の定義——どの図面の、どの版を、どの仕事に使ってよいか——は、図面を眺めただけでは決まりません。改訂欄の書き方も、改訂をどの経路で社内外へ伝えるかも、客先との取り決めや客先から示される要求事項、自社の社内規定によって決まります。明文化された取り決めがある会社もあれば、慣習として運用されているだけの会社もあります。ここを曖昧にしたまま仕組みだけを導入しても、旧版誤使用は防げません。

最初に必要なのは、「この図番を、この客先のこのオーダーで使うとき、どの版が有効か」を一箇所で確認できる有効版台帳です。有効版は会社全体で一つに決まるものではなく、図番×版数×客先×オーダー/ロットの組み合わせごとに決まります。台帳自体はExcelでもPDMの機能でも構いません。重要なのは、次の項目を欠かさず記録することです。

項目記載する内容の例確認のポイント
図番客先図番(社内図番と対応させる場合は併記)取引先ごとに図番の体系が違う場合、対応表を別に持つ
版数・改訂記号表題欄・改訂欄に記載された版数、改訂記号読み取れない・記載が欠けている場合は「未確認」として扱う
発行日その版が客先で発行された日(表題欄・改訂欄に記載される日付)発行日は「いつ作られた版か」を示すだけで、使ってよい範囲までは示さない(05節)
適用開始日客先が指定した、その版の適用を開始する日発行日とは別の欄にする。指定が確認できない場合は空欄のまま「未確認」として扱う(05節)
適用対象(客先・オーダー・ロット)どの客先の、どの発注・どのロットから適用するか(次回発注分から、当該ロットから、在庫消化後からなど)指定がなければ客先に確認する。空欄を「全件に新版を適用」とも「旧版を継続」とも読み替えない
改訂理由の区分仕様変更/不具合対策・安全に関わる改訂/表記の修正など、改訂連絡に書かれた理由不具合対策・安全に関わる改訂は、該当図番の製造が進んでいる間、確認待ちがそのまま旧版での製造の継続になるため扱いが変わる(05節・07節)
発行元・受領日・受領者客先の発行部署、社内で受け取った日と担当者受領記録が無い改訂は「未受領」として扱い、推測で台帳を更新しない。受領の記録は、その版で生産してよいという承認ではない
旧版の無効化状況旧版ファイルへの無効表示、紙図面の回収・廃棄記録無効化が完了するまで、新版だけを有効版台帳に反映しても事故は防げない
有効版台帳の役割は、改訂の履歴を残すことではなく、「この図番を、この客先のこのオーダー・このロットで加工するとき、使ってよい版はどれか」を誰でも同じ答えにたどり着けるようにすることです。同じ図番でも、仕事の単位によって使うべき版が分かれることがあります。「現行版は一つ」という前提で台帳を作ると、適用条件の付いた改訂を扱えません。履歴の記録と、仕事の単位ごとに参照すべき版の表示は、目的が違うため両方を意識して設計します。
― 04 / 受領・配布・現場参照

改訂連絡が届いてから、現場が新版を見るまでの経路を切らさない

有効版台帳を作っても、それが現場と協力会社に届かなければ意味がありません。改訂連絡を受け取ってから、現場が実際に新版を参照するまでの経路を、工程ごとに確認します。

工程やること確認すること
受領客先からの改訂連絡・新版図面を受け取る受領した担当者と日付を記録する窓口を一本化する(複数部署がばらばらに受け取ると抜けが生まれる)
有効版台帳の更新03節の項目を台帳に反映する反映が完了するまでは、新版・旧版のどちらも既定の正解として扱わない。該当する仕事を進めてよいかは、適用開始日と適用対象の確認が済むまで責任者が個別に判断する
社内フォルダの更新新版を所定の場所に置き、旧版を無効化表示または隔離する旧版を削除せず残す場合は、誰が見ても旧版と分かる表示にする
現場への周知朝礼・掲示・現場端末での通知など、現場が気づく手段で伝えるメール一斉送信だけに頼らない。現場が実際にその図面を開く場所での周知を優先する
現場図面の差し替え作業台・治具・検査要領に貼られた紙図面を新版に差し替える差し替え完了の確認(チェック欄・写真記録など)を残す
協力会社への展開配布リストに基づき新版を送付する(06節)社内の対応と同時、または直後に着手する。後回しにしない
受領確認現場・協力会社から「新版を受け取り、参照を開始した」旨の確認を得る確認が取れない相手は「旧版参照の可能性がある」対象として管理する

ここで区別しておきたいのは、受領確認は「新版が届いた」ことの確認であって、「その版で生産を始めてよい」という承認ではないという点です。配布と受領確認が済んでいても、どの客先の、どの発注・どのロットからその版を適用するかが確認できるまでは、着手の可否は別に判断します(05節)。配布が完了した時点で現場が自動的に新版へ切り替える運用にすると、適用対象外のロットにまで新版が入り込みます。

この経路のどこか一つでも「担当者の記憶」に頼っていると、その担当者が不在のときに経路が切れます。受領・更新・周知・差し替え・展開・確認のそれぞれに担当と記録の残し方を決めておくことが、旧版参照を防ぐ土台になります。

― 05 / 発行日・適用開始日と適用範囲

発行日と適用開始日は別物——日付が来ても即時全面適用とは限らない

図面の表題欄・改訂欄に記載されるのは、その版が客先で発行された日、すなわち発行日です。その版で仕事を始めてよい日、すなわち適用開始日は、改訂連絡や客先の指示で別に示されることがあります。二つを同じ欄にまとめると、記録した日付がどちらの意味なのか後から判別できなくなります。

さらに、適用の可否は日付だけでは決まりません。同じ改訂でも、どの客先の、どの発注・どのロットが対象かによって使うべき版が分かれます。実際には、次のような適用条件が付くことがあります。

いずれの場合も、旧版を使い続けてよいのは客先との取り決めまたは改訂連絡で適用範囲が示されているオーダー・ロットに限られます。適用範囲は、その改訂ごとに個別に示されることもあれば、客先との間で継続的に定めた取り決め(改訂は次回発注分から適用する、といった条件)としてすでに決まっていることもあります。取り決めも個別の指示も無い範囲まで「たぶん旧版のままでよい」と広げないことが前提です。

この適用範囲は、図面そのものには書かれておらず、改訂連絡の文面や客先とのやり取りに記載されることがあります。有効版台帳の「適用開始日」「適用対象」欄(03節)は、この条件を明文化するための欄です。条件が不明なまま新版・旧版のどちらかを推測で適用すると、後から「対象外のロットに新版を使ってしまった」「新版を適用すべきロットに旧版を使い続けてしまった」という、方向の異なる二種類の事故のどちらも起こり得ます。適用条件が読み取れない、または記載がない場合は、どちらの版も推測では適用しません。この状態は「旧版のまま進めてよい」という意味ではありません。責任者が影響を受ける仕事の範囲を評価し、判断がつくまで該当する作業・仕掛品・在庫、および協力会社へ出した発注分を保留または隔離したうえで、客先へ適用範囲を確認します(07節)。

改訂理由が不具合対策や安全に関わる場合は、扱いが変わります。この区分では、該当図番の製造や出荷がすでに進んでいる場合、確認を待つことがそのまま旧版での製造・出荷の継続を意味します。適用範囲の回答を待つ前に、責任者が影響範囲を評価し、該当する工程・仕掛品・在庫・協力会社への発注分を保留または隔離したうえで、07節の手順で客先へ確認します。作業を止める場合は、現場の安全手順・設備の停止手順に従い、責任者の指示のもとで安全に停止させます。工程や設備によっては、確認なしに一斉に止めること自体が別の危険を生むため、止め方は自社の定めた手順に従ってください。

― 06 / 紙図面と協力会社

フォルダの更新が届かない相手を、前提を変えて管理する

紙で配布した図面と、協力会社に渡した図面は、社内フォルダの更新が自動的に反映されません。「配布したはず」ではなく、「配布した記録があり、相手が版数を認識したことまで確認できているか」という基準で管理する必要があります。

対象確認すること実務上の対応例
社内の紙図面(作業台・治具・検査要領に貼付)改訂のたびに差し替えが完了しているか差し替え担当と完了確認(チェック欄・掲示日の記入など)を運用に組み込む
旧版の紙図面の回収・無効化差し替え後、旧版が現場に残っていないか回収した旧版に無効印を押す、または裁断・廃棄した記録を残す
協力会社への配布リストどの協力会社に、どの図番・版数を配布したかの記録があるか配布リストを図番単位・協力会社単位の両方で参照できるようにする
協力会社への新版送付改訂のたびに新版が送付されているか、社内対応より遅れていないか社内フォルダ更新と同時、または直後に送付するルールにする
協力会社からの受領確認相手が新版を受け取り、版数を認識したことが確認できているか受領確認が取れない場合は、旧版参照の可能性がある対象として個別にフォローする

協力会社が複数の取引先から図面を預かっている場合、相手先の中でも図番や版数の管理ルールが混在していることがあります。自社の配布ルールを一方的に押し付けるのではなく、相手がどう管理しているかを確認したうえで、受領確認の取り方をすり合わせる方が実務的です。

― 07 / 不一致発生時の対応

気づいたら、原因究明より先に止める

有効版台帳と経路を整えても、版の混在や旧版参照に気づく場面は起こり得ます。重要なのは、気づいた瞬間に何をするかの順序をあらかじめ決めておくことです。この手順に入る入口は、版の混在に気づいたときだけではありません。改訂理由が不具合対策・安全に関わると分かったとき、および適用範囲が確認できないまま該当図番の作業が進んでいると分かったときも、同じ順序で動きます。

  1. 影響範囲の仮の確定。どの工程・どのロット・どの協力会社が、どの版で作業していたかを、分かる範囲で先に洗い出します。正確な原因が分かるまで待つ必要はありません。
  2. 該当工程の停止と対象物の隔離。疑わしい場合は、対象の加工・組立・検査をいったん止め、該当する仕掛品・在庫を他と混ざらない場所へ分けます。停止は現場の安全手順・設備の停止手順に従い、責任者の指示のもとで安全に行います。止める権限を誰が持つかを平時に決めておきます。
  3. エスカレーション。上長・品質保証へ速やかに報告します。報告の遅れは、その間の作業継続による被害拡大に直結します。
  4. 出荷可否・ロールバックの判断。出荷前であれば出荷を止めます。出荷後であれば、まず品質保証協定や取引基本契約に不適合品の連絡について取り決めがあるかを確認し、そのうえで連絡と対応方針を、品質保証・営業・場合によっては経営を含めて判断します。仕掛品・在庫が旧版で作られている場合、手直し・作り直し・特採(特別採用)のいずれで扱うかもここで判断します。協力会社へ旧版で発注した分がある場合は、同じ手順で保留・隔離と連絡の要否を確認します。
  5. 記録。いつ、どこで、どの版が使われ、どう対応したかを記録します。この記録が、客先への説明と再発防止の根拠になります。
  6. 再発防止への反映。原因分析はこの段階で行います。02節の複合原因のどれに当てはまったかを確認し、有効版台帳・経路・配布ルールのどこを直すかを具体化します。

原因究明を先に行い、対応が後手に回ると、その間も旧版での作業や出荷が続いてしまう可能性があります。止める判断を先に、原因を明らかにするのはその後という順序を、平時のうちにルールとして共有しておきます。

― 08 / AIと人の分担

AIに任せられる範囲、人が確定する範囲、そしてAIを使わない選択肢

ここまでの運用は、AIの有無にかかわらず必要です。そのうえで、AIが補助できる範囲を整理します。

工程AIに任せられると考えられる範囲人が確定する範囲
版の読み取り表題欄・改訂欄からの図番・版数・改訂日・改訂記号の読み取り候補の提示読み取り結果が図面と合っているかの確認
混在の検出同一図番で版数の異なるファイルが社内に複数存在することの検出と一覧化検出された図面が実際に混在状態にあるかの確認
差分候補版間の記載差分(寸法・公差・材質・注記など)の候補提示差分が工程・品質に与える影響の判断
旧版参照の検知作業指示・見積・発注記録が参照している版数と、有効版台帳との食い違いの検知と出典付きの提示検知結果を受けて作業を止めるかどうかの判断
有効版の確定(担わない)改訂連絡・客先とのやり取りに基づく、客先・オーダー/ロット単位での有効版と適用範囲の確定
停止・エスカレーション・ロールバック(担わない)07節の一連の判断と実行

AIが誤判定しやすい点にも触れておきます。図面の一部だけが改訂された「部分改訂」を、AIが表題欄の版数だけで判断すると、実質的な変更点を見落とす、あるいは逆に変更のない図面を「差分あり」と誤って検知することがあります。差分候補は候補として扱い、実際の変更内容は人が図面を見て確認します。

また、既存のPDMや図面管理システムが既に有効版の一元管理と発行・回収の運用を徹底できている会社では、AIによる検出を追加で導入する優先度は高くありません。改訂の頻度が低い、拠点や協力会社の数が少ない、紙図面をほとんど使わないという条件がそろっている場合、AIの出番は限定的です。まず今の運用(誰が発行権限を持ち、旧版がどう無効化され、協力会社にどう配布しているか)が徹底されているかを点検し、そのうえで抜けが見つかった箇所に絞って仕組みの導入を検討する順序をおすすめします。

― 09 / 進め方

小さく始める——1図番・1ラインからの検証

いきなり全図番・全工程に運用を広げるのではなく、小さく始めて検証する方が現実的です。

  1. 有効版台帳の項目(03節)を決める。まずは紙やExcelでも構わないので、図番×版数×発行日×適用開始日×適用対象(客先・オーダー/ロット)×改訂理由の区分×発行元×受領記録の欄を用意します。
  2. 経路表(04節)を自社の実態に当てはめる。受領から協力会社への展開まで、誰が何をしているかを書き出します。担当が決まっていない工程が、改善すべき箇所です。
  3. 1図番・1ラインで試す。改訂頻度の高い図番を一つ選び、受領から現場・協力会社への展開、受領確認までを実際に回してみます。
  4. 不一致発生時の手順(07節)を訓練する。実際の事故を待たず、訓練として「版が混在していた場合」「改訂理由が不具合対策だった場合」を想定した停止・隔離・エスカレーションの流れを一度確認しておきます。
  5. 効果を確かめてから広げる。受領から現場参照までの経路が確認できたら、対象の図番・ラインを広げます。ここでAIによる読み取り・差分検出・旧版参照の検知を補助として組み込むかどうかは、08節の判断基準に従って検討します。

検索・照合や見積準備など、図面まわりの他の業務へAIの活用を広げる際の全体像はAI業務コーディネーターで紹介しています。

― FAQ

よくある質問

図面管理システム(PDM)を導入していれば、旧版誤使用は防げますか

有効版の一元管理と発行・回収の運用が徹底されているなら、それだけで足りている場合もあります。とくに改訂頻度が低い、拠点や協力会社の数が少ない、紙図面をほぼ使わないという条件がそろっている会社では、新しく何かを導入するより、今のPDMやファイルサーバーの運用—誰が発行権限を持ち、旧版がどう無効化され、協力会社にどう配布しているか—を点検する方が先です。この記事で扱う有効版台帳や経路の考え方は、PDMを使っている会社にも使っていない会社にも共通する骨格であり、PDMを置き換えるものではありません。

改訂連絡を送ったはずなのに、なぜ現場は旧版を参照してしまうのですか

単一の原因で説明できるとは限りません。改訂連絡のメールが担当者の受信箱に埋もれる、社内フォルダに新旧の図面が同じ場所に残っている、現場に貼ってある紙の図面が回収されていない、協力会社への展開が社内より数日遅れる、受領確認を誰もしていないため連絡が届いたかどうか誰も把握していない——こうした複数の穴が重なったときに、旧版参照は起こります。原因を一つに絞り込もうとすると、他の穴を見落とします。

発行日や適用開始日が今日になっていれば、すぐにその版で作ってよいですか

日付だけでは決まりません。表題欄や改訂欄に記載されるのは、その版が客先で発行された日(発行日)です。その版で仕事を始めてよい日(適用開始日)は改訂連絡や客先の指示で別に示されることがあり、二つは別の欄に分けて記録します。さらに、適用の可否は日付だけでなく、どの客先の、どの発注・どのロットが対象かという範囲とあわせて決まります。改訂は必ずしも即時全面切り替えではなく、次回発注分から適用する、客先が明示的に認めた仕掛かり中のロットは旧版のまま完了させるといった条件が付くことがあります。条件が読み取れない場合は、新版・旧版のどちらも推測で適用せず、客先に確認し、判断がつくまで該当する作業と対象物を保留します。

AIは旧版誤使用をどのように防いでくれますか

防ぐと言い切れる性質のものではありません。AIに任せられるのは、表題欄・改訂欄の記載をもとに図番・版数・改訂日を読み取ること、同じ図番で版数の異なるファイルが複数存在することを検出して差分の候補を並べること、作業指示や見積で参照された版が有効版台帳と食い違っている可能性を出典付きで示すことまでです。候補を提示した先で、どの版が有効かを確定する判断と、現場や協力会社への展開の可否は人が行います。AIの出力を確定の根拠として扱わないことが、事故を減らすうえでの前提になります。

協力会社に渡した紙の図面はどう管理すればよいですか

紙で配布した図面は、社内のフォルダ更新が届かないという前提で管理する必要があります。配布した相手と版数を記録した配布リストを持ち、改訂のたびに配布先へ新版を送付し、可能であれば受領確認を得ます。回収できる相手には旧版の返却や無効化の押印を依頼し、回収が難しい相手には旧版であることが一目で分かる運用(版数の目立つ表示、期限の明記など)を検討します。協力会社側で受領確認が取れていない配布は、届いていないものとして扱う方が安全です。

版の混在に気づいたときは、まず何をすればよいですか

最初にすべきは原因の特定ではなく、影響範囲の仮の確定と作業の停止です。どの版が今回の対象工程・対象ロットで使われていたかを確認し、疑わしい場合は該当工程の作業をいったん止め、対象の仕掛品・在庫を隔離します。停止は現場の安全手順・設備の停止手順に従い、責任者の指示のもとで安全に行います。次に、どこまで旧版で進んでしまったかを洗い出し、上長や品質保証へエスカレーションします。出荷前であれば出荷を止め、出荷後であれば、品質保証協定や取引基本契約に不適合品の連絡についての取り決めがあるかを確認したうえで、連絡と対応方針を判断します。原因の分析と再発防止の検討は、この停止とエスカレーションの後に行う事柄であり、順序を逆にすると被害が広がったまま原因究明が長引きます。

図面の版混在の現状を、一緒に整理しませんか

導入の話をする前に、今どの図番・どの工程で版の混在や配布の抜けが起きやすいかを、有効版台帳と経路表の形で一緒に書き出すところから始められます。AIによる読み取りや検出の導入が有効かどうかは、その整理のあとに判断できます。既存のPDMや手順で足りると判断した場合は、そのように申し上げます。

図面の版混在の現状を整理する