現場の悩みから考える

注射剤バイアル・アンプルの異物・混濁を全数検査する画像AI

透明なバイアルやアンプルの中を泳ぐ小さな異物や、わずかな混濁を、人の目で全数見切るのは限界に近づいています。なぜ難しいのか、何を撮れば見えるのか、どこで誤判定が生まれるのか。撮像・照明・判定を分けて、確かめ方から考えます。

2026-09-06 / 最終更新 2026-09-06 / 監修:嶋野(元キーエンス画像処理事業部 開発エンジニア)/ 読了時間:約13分
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注射剤の異物・混濁・容器欠けの目視全数検査は、検査員の集中力と個人差に依存し、微小な不溶性微粒子ほど見落としと過検出の両方が起きやすい構造的な難所があると考えられます。
02
透明容器・液中の異物は「照らし方」で見え方が激変します。回転させて異物を動かし、背景と光の当て方を設計して初めて撮像対象として成立する、というのが出発点になりうる領域です。
03
まず自社の実サンプル(良品と、混濁・微粒子・気泡・キズの現物)を撮り分けて何が写り何が写らないかを客観的に把握することが、方式判断の最初の一歩と考えます。
― 目次
  1. 背景と課題
  2. なぜ目視全数が限界か
  3. 撮像と照明の難所
  4. 判定設計の考え方
  5. 運用とバリデーション
  6. 落とし穴
  7. 始め方のロードマップ
― 01 / 背景と課題

「もう目で全部は追いきれない」——注射剤検査の現場で起きていること

注射剤は体内に直接投与されるため、液中の不溶性微粒子や混濁、容器の欠け・クラックは、他の製品カテゴリとは比較にならないほど厳しく見られます。多くの現場では、明暗二種の背景の前で容器を手で回し、光にかざして中を透かし見る「目視検査(人による官能検査)」が今なお主力です。熟練した検査員の目は驚くほど鋭いのですが、その鋭さは同時に「人に強く依存している」ということでもあります。

困りごととして繰り返し語られるのは、「小さな微粒子が本当に見えているのか自信が持てない」「同じロットでも人によって判定が割れる」「一日の後半は集中力が落ちる」「見つけたキズが本物の異物なのか、容器表面の水滴や気泡なのか毎回迷う」といった声です。これらは検査員の能力の問題ではなく、透明容器・透明液体という対象そのものが持つ、見えにくさに由来していると考えられます。

さらに近年は、生産量の増加、少人数化、熟練検査員の高齢化と技能継承の難しさが重なり、「目視で全数を維持する」こと自体が事業のボトルネックになりつつあります。抜取に切り替えれば流出リスクが上がり、全数を維持すれば人が足りない——この板挟みが、多くの品質部門が抱える現在地ではないでしょうか。

― 02 / 論点整理

なぜ「目視の全数」がこれほど難しいのか

まず論点を分けます。注射剤検査で見たいものは大きく、①液中の不溶性微粒子(繊維状・点状の異物)、②混濁・変色・沈殿といった液そのものの状態変化、③容器の欠け・クラック・異物付着、④液量・封止の異常、に整理できます。これらは見え方も、必要な照らし方も、それぞれ全く異なります。ひとまとめに「異物検査」と呼んでしまうと、方式選定を誤りやすい領域です。

「動くから見える」異物と、「動かない」欠陥

液中の微粒子が目視で検出できるのは、実は容器を回して止めた瞬間に、慣性で異物がゆっくり動くからです。人の目は「背景に対して動く小さな点」を捉えるのが得意で、静止画では埋もれる粒子も、動きがあれば認識できます。逆に言えば、一枚の静止画だけを撮って判定しようとすると、この「動きの手がかり」を捨ててしまうことになりかねません。ここが自動化の最初の分岐点になると考えられます。

気泡という最大の紛らわしさ

液中には、異物とよく似た見え方をする「気泡」がほぼ必ず存在します。気泡は光を屈折・反射し、形も動きも異物に似ることがあります。目視でもここは迷いどころで、検査員は「浮き上がって消えるかどうか」「動き方」で見分けています。自動検査でも、この気泡と本物の異物の切り分けが精度を左右する核心になりうる、というのが現場感覚に近い論点です。

加えて、容器表面の水滴・指紋・スリキズ、ガラスの成形跡やロゴ刻印なども、内部の異物と紛らわしく写ります。「中の異物」と「表面の汚れ・模様」を光学的に分離できるかどうかが、判定を安定させる前提条件になると考えられます。

― 03 / アプローチ

撮像と照明——「写らないものは判定できない」という原則

画像AIの精度は、モデルの前に「その欠陥がそもそも画像に写っているか」で決まります。透明容器・透明液の検査は、この撮像設計の比重が特に大きい領域です。良い光学系で撮れた画像は素直なモデルでも判定でき、写っていないものはどれだけ高度なモデルでも救えません。まずここを直視することが出発点になると考えます。

異物を「動かして」撮るという発想

目視が動きで見ているのなら、撮像でも動きを使うのが自然です。容器を回転させて急停止し、液の中で異物が旋回している最中に複数フレームを連写して、フレーム間で「動いた点」を抽出する——という考え方があります。動かない表面キズや刻印は差分で消え、動く異物だけが残りやすくなります。これは気泡との切り分けにも効き、静止画一枚勝負よりも情報量を確保できる方向性と考えられます。

背景・照明・容器の三点セットで設計する

透明対象は「何を背景に、どこから照らすか」で見え方が一変します。暗背景に側射光を当てて異物を光点として浮かせる、明背景の透過で混濁や色を見る、といったように、見たい欠陥ごとに最適な照らし方は違います。一つの照明で全部を狙うより、目的別に撮像条件を分け、必要なら複数条件を切り替えて撮る構成が現実的になりうる領域です。ここはAI画像検査パッケージのように、撮像・照明・判定を一体で設計する発想が効いてくると考えます。

容器側の要因も無視できません。ガラスの肉厚ムラ、成形跡、屈折、口部の形状、ラベルやプリントの有無で、同じ液・同じ異物でも写り方が変わります。「容器の個体差=背景ノイズ」を、どこまで撮像で抑え、どこからモデルに任せるか。この線引きが設計の勘所になると考えられます。透明ガラスの光学は、元キーエンス画像処理事業部での撮像・照明の知見と、現場ライティングの積み重ねが差になりやすい領域でもあります。

― 04 / 設計の考え方

判定設計——過検出と見落としのどちらを恐れるか

注射剤検査は、見落とし(本物の異物を良品と判定)を極力避けたい一方、過検出(良品を不良と判定)が多すぎると、大量の再検査や廃棄が発生して現場が回らなくなります。この二つはトレードオフの関係にあり、「どちらにどれだけ寄せるか」は品質方針そのものです。技術で勝手に決められる話ではなく、経営・品質判断とセットで設計する必要があると考えられます。

『AIで一発判定』ではなく段階で切る

現実的には、AIに白黒すべてを委ねるのではなく、段階的な判定が扱いやすいことが多いと考えられます。たとえば、明らかな良品と明らかな不良を自動で切り分け、判断が割れるグレーゾーンだけを人の再確認に回す、という設計です。こうすると、人が見るべき本数を絞りつつ、微妙なケースの最終判断は人に残せます。全自動を最初のゴールにせず、人と機械の役割分担から入る方が、立ち上げは現実的になりうると考えます。

『不良サンプルが足りない』問題への向き合い方

注射剤の異物不良は、そもそも滅多に出ないからこそ管理されています。つまり学習用の不良画像が集めにくい、という構造的な悩みがつきまといます。ここは、標準粒子や擬似異物を用いた検証用サンプルの作成、良品の分布から外れを捉える考え方、限られた実不良の丁寧な活用などを組み合わせる領域で、「万能な近道はない」と正直に捉えるのが誠実だと考えます。関連する考え方はtablet capsule fill count inspectionのような計数・充填系の判定設計とも通じる部分があります。

― 05 / 運用

運用とバリデーション——「入れて終わり」にしないために

医薬品の製造現場では、検査工程の変更は品質システムの中で管理され、妥当性の確認(バリデーション)や記録・トレーサビリティが求められます。画像AIを検査に組み込む場合も、単に精度が高いだけでは足りず、判定の根拠を残せること、条件変更が記録できること、判定履歴を後から検証できることが重要になると考えられます。具体的な適用範囲・要件は、所管省庁や各社の品質方針・最新の公表資料でご確認ください。

良否の『地図』を最初に作る

運用に乗せる前に、自社の良品・不良品がどう写るかの「地図」を作っておくと、後の判定基準づくりが安定します。良品の中にも許容される個体差(気泡・微細な成形跡・水滴)があり、これらを不良と切り分ける境界を、現物で合意しておくことが大切です。この合意なしにモデルだけ調整すると、現場の感覚と機械の判定がずれ、「機械は不良と言うが人は良品と言う」対立が起きやすくなると考えられます。

ドリフトを見張る

容器ロットの変更、液の処方変更、照明のわずかな劣化、レンズの汚れなど、時間とともに撮像条件は静かに変化します。導入直後に合わせた基準が、数ヶ月後にはずれていることは珍しくありません。定期的に基準サンプルを流して判定の傾向を確認する、といった「見張りの仕組み」を運用に織り込んでおくことが、長く使うための鍵になると考えます。

― 06 / 落とし穴

つまずきやすいポイント

透明容器・液中異物の自動検査で、事前に知っておくと回避しやすい落とし穴を挙げます。いずれも「やってみて初めて分かる」類のもので、小さく試す価値がある論点です。

― 07 / ロードマップ

何から始めるか——現物検証からの小さな一歩

最初にやるべきは、大がかりな設備投資ではなく、自社の実サンプルを撮ってみることだと考えます。良品数種と、混濁・微粒子・気泡・容器キズの現物(または擬似サンプル)を、いくつかの照明条件で撮り分け、「何が写り、何が写らないか」を自分の目で確かめる。ここで得られる事実が、方式を全自動にするか半自動にするか、どの欠陥を機械に任せどれを人に残すか、という判断の土台になります。

その上で、見たい欠陥・許容できる過検出の水準・対象容器の範囲を先に定義し、小さな範囲で検証してから広げるのが、失敗の少ない進め方と考えられます。検査可否そのものを見極める段階から相談したい場合は、PoC・検査方式設計のように、小さく検証してから本格導入に進むアプローチが向いていると考えます。

注射剤に限らず、透明・光沢・曲面といった「撮りにくい対象」の検査は、モデルの前に撮像で勝負が半分決まります。パッケージ封止の検査など隣接する工程の考え方はpharma blister pack seal inspectionも参考になります。まずは現物を撮り、事実から議論を始めることが、遠回りに見えて最短だと考えます。

― 関連

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― FAQ

よくある質問

液中の小さな微粒子は静止画のAIでも検出できますか?

静止画一枚では、気泡や表面キズと区別しにくく検出が難しい場合があると考えられます。目視が容器を回して異物の動きで見分けているように、連写して動いた点を抽出するなど「動き」を使う撮像設計が有効になりうる領域です。まずは自社サンプルで、静止と動きのどちらでどこまで写るかを確かめることをおすすめします。

気泡と異物はどう見分けるのですか?

気泡は浮上して消える、動き方が異物と異なる、といった手がかりで人は見分けています。自動検査でも、複数フレームの動きや、光の当て方による見え方の差を使って切り分ける設計が核になると考えられます。ただし容器・処方によって気泡の出方は変わるため、現物での検証を前提に判定基準を作る必要があります。

不良サンプルがほとんどありません。検証できますか?

注射剤の異物不良は滅多に出ないため、これは多くの現場に共通する悩みです。標準粒子や擬似異物での検証、良品の分布から外れを捉える考え方、限られた実不良の丁寧な活用などを組み合わせる方向になりますが、万能な近道はないと考えます。何をどれだけ用意できるかを最初に整理することが出発点になります。

目視を完全に無くして全自動にできますか?

いきなり全自動を目指すより、明確な良品・不良を自動で切り、判断が割れるグレーゾーンだけ人に残す段階設計が現実的になりうると考えます。過検出が多いと再検査で現場が回らなくなるため、どこまで機械に任せるかは品質方針とセットで決める必要があります。まず半自動から入り、実績を見て範囲を広げる進め方が無難です。

医薬品の検査工程にAIを入れる際の規制面の注意点は?

検査工程の変更は品質システムの中で管理され、妥当性確認や記録・トレーサビリティが求められると一般に理解されています。判定根拠を残せること、条件変更を記録できることが重要になると考えられます。具体的な適用範囲や要件は、所管省庁や各社品質方針の最新の公表資料で必ずご確認ください。

― REVIEWED BY
嶋野(元キーエンス画像処理事業部 開発エンジニア)
キーエンス画像処理事業部での実務経験をもとに、産業用カメラ・照明・光学系・検査装置の開発に従事し、現在はNsightの技術コンテンツ監修を担当。プロフィール詳細 →

まずは自社の現物を撮って、何が写るか確かめてみませんか

透明容器・液中異物の検査は、モデルの前に撮像で勝負が半分決まります。良品と、混濁・微粒子・気泡・容器キズの現物を撮り分けるところから、検査可否と方式を一緒に見極めます。全自動を前提にせず、小さく検証してから広げる進め方をご提案します。

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