フィルムのキズが流れて見逃される。その原因は「検査AIの精度」よりも手前、そもそもカメラにキズが写っているかどうかにあることが少なくありません。連続材の傷検出でつまずく4つの上流——照明・速度・分解能・同期を、一つずつ確かめる順番で解きほぐします。
「フィルムのキズが検査で見逃される」と検索してたどり着いた方は、おそらく後工程や出荷後のクレームで初めて傷が発覚した経験をお持ちだと思います。ラインでは合格と判定されたのに、巻き取った後や客先で線キズが見つかる。目視の担当者を増やしても、AIの検査装置を入れても、なぜか同じ傷が抜けてしまう——この繰り返しは、現場にとって非常に消耗するものです。
まず前提として押さえておきたいのは、連続材(フィルム・シート・箔・紙・織布など流れ続ける材料)のキズ検出は、部品を1個ずつ止めて撮る検査とは難しさの質が違う、ということです。材料は止まらず、キズは非常に細く、しかも色や明るさをほとんど変えないことが多い。この三つが重なると、装置の性能以前に「そもそも撮れているのか」というところでつまずきます。
見逃しが起きると、多くの現場ではまず「検査アルゴリズムの精度が足りない」「AIの学習が不十分だ」という話になりがちです。もちろんそういう場合もあります。ですが、私たちが現場で撮像を見直すと、見逃しの相当数は判定ロジックより手前、取得された画像そのものにキズが写っていない(あるいは写っていても人の目で追えないほど薄い)ことに起因していると考えられます。写っていないものは、どんなに賢いアルゴリズムでも見つけられません。
だからこの記事では、精度チューニングの話に入る前に「写るか/写らないか」を分ける上流の4要素——照明の当て方・ライン速度・画素分解能・エンコーダ同期——を順に分解していきます。読者ご自身の現場で、どこが原因かを切り分けられる状態を目指します。
見逃しの原因を追うとき、最初にやるべきは問題を二つに割ることだと考えます。ひとつは撮像の問題(キズが画像に写っていない)、もうひとつは判定の問題(写っているのに検査ロジックが拾えていない)。この二つはとるべき対策がまったく違うため、混ぜて議論すると迷走しやすくなります。
切り分けの最短ルートは、実際に見逃した傷の位置がわかっている材料サンプルを手元に用意し、その部分の取得画像を等倍(1画素も間引かない100%表示)で拡大して、人の目でキズが見えるかを確かめることです。人が拡大しても見えないなら、それは撮像の問題です。人には見えるのに装置が拾えていないなら、判定側の閾値や特徴量の問題という切り分けになります。
意外に思われるかもしれませんが、モニタで縮小表示された「見やすい画像」に頼っていると、この判断を誤ります。表示のために間引かれた画像では、1〜2画素幅の線キズは消えてしまうためです。原寸で見ることが、論点を分ける最初の一歩になります。
等倍で見てもキズが写っていない場合、犯人は照明・速度・分解能・同期のいずれか(あるいは複合)である可能性が高いと考えられます。以降のセクションでは、この4つを一つずつ確かめられるように分解します。逆に、写っているのに拾えていないなら、それはそれで対処可能な良い状態です——少なくとも「見えている」という土台があるからです。
連続材のキズ検出で最も効きやすく、最も見落とされやすいのが照明です。傷はふつう、色そのものを変えません。浅いスリキズや擦過痕は、表面の微細な凹凸で光の反射方向を局所的に変えるだけです。つまりキズは「明るさの違い」ではなく「反射の乱れ」として現れる。この乱れを画像上のコントラストに変換できるかどうかは、光をどの角度から当て、どの角度で受けるかで決まると考えられます。
正反射の光を受ける明視野(ブライトフィールド)では、平滑な面が明るく写り、傷も背景に埋もれて見えにくくなることがあります。一方、材料に対して斜め浅い角度から光を当て、正反射を外して受ける暗視野(ダークフィールド)やローアングル照明では、キズの縁だけが散乱光で明るく(または暗く)際立ち、細い線として浮かびます。「明視野では消えるのに暗視野では見える」という現象は、連続材のキズ検出では日常的に起こります。どの照明で傷が最もはっきり浮くかを実材で試すことが、検出可否を分けると考えられます。
照明の当て方の基本的な考え方は照明設計の基本で整理していますが、要点は「傷という欠陥を、背景との明暗差に変換する光を探す」ことです。色を変えない欠陥を無理に明視野で撮ろうとすると、いくらAIを鍛えても土台が弱いまま、という状態になりかねません。
見落とされやすいのが、キズには向きがあるという点です。ライン方向(流れ方向)に走る傷と、幅方向に走る傷では、光を当てる方位を変えないと同じようには浮きません。ある方向の傷はよく写るのに、直交方向の傷が抜ける——これは照明の方位が偏っているサインの可能性があります。複数方位からの照明や、方位を意識した配置の検討が、抜けを減らす方向に働くと考えられます。
照明で傷が浮く条件が見つかっても、材料が高速で流れる連続材では、さらに三つの条件がそろわないと安定して写りません。ライン速度に対する露光、画素あたりの分解能、そして搬送とカメラの同期です。ここは止まった部品の検査には無い、連続材固有の難所だと考えます。
1〜2画素幅の細い傷は、露光時間の間に材料が流れ方向へ動くと、その動きの分だけ像がにじみます。1画素分より大きく動けば、傷は流れてぼやけ、コントラストが落ちて消えます。対策はストロボ的な短時間発光や、後述するライン同期ですが、まずは「今の速度と露光で、露光中に材料が何画素動いているか」を概算してみることが、原因の切り分けに役立つと考えられます。速度を上げた途端に見逃しが増えたなら、この要因を強く疑う価値があります。
検出したい最小のキズ幅に対して、画素が粗すぎると傷は安定して写りません。目安として、捕まえたい特徴は複数画素で受けられる分解能が望ましいと考えられます。傷幅が1画素を下回ると、傷がちょうど画素の境界に来たときだけ薄く写り、位置がずれると消える——という不安定な状態になります。「たまに写る/たまに抜ける」という症状は、分解能不足のサインである可能性があります。必要な視野幅と最小欠陥から逆算した画素数の検討は、カメラ選定の考え方の観点が手がかりになります。
連続材の撮像で多用されるラインスキャンカメラは、1ラインずつ画像を積み上げて面を作ります。このとき搬送速度の変動をエンコーダ(回転検出)でカメラに伝え、材料が一定量進むごとに1ライン撮る(ライン同期)ようにしないと、速度ムラで像が流れ方向に伸び縮みし、最悪は撮像の隙間ができてそこを通った傷が丸ごと抜けます。等倍で見ると縦横比が崩れていたり、周期的な濃淡ムラがあるなら、同期の乱れを疑う価値があります。連続材・高速ラインでの撮像の組み立てはラインスキャン撮像の設計で扱っています。
フィルムには、金属や不透明シートには無い固有の難しさがあります。透明・半透明であること、そして表面が光沢を持つことです。透明材では、手前の面のキズと裏の面のキズ、さらに背後の背景まで同時に写り込み、どれが本当の欠陥かを分けにくくなります。背景に何を置くか(吸収する黒、透過を使う透過照明など)で、写り方が大きく変わると考えられます。
透明フィルムでは、光を裏から通す透過照明が有効な欠陥(異物・穴・濁り・厚みムラなど、光の通り方を変える欠陥)と、反射で浮く表面キズが混在します。透過で見えるものと反射で見えるものは別物であり、両方を1つの光学系で完璧に捕まえるのは難しいことが多い。「どの欠陥をどの光で写すか」を欠陥種類ごとに決めていく設計が、現実的な落としどころになると考えられます。
照明・速度・分解能・同期が整い、キズが画像に写るようになって初めて、判定の話が意味を持ちます。ここでも注意したいのは、傷は微弱なコントラストとして現れることが多く、単純な明るさの閾値では、材料本来のムラや汚れと区別しづらいという点です。傷の「線としての連続性」や、正常時の見え方との差など、形や文脈を手がかりにする判定が向く場面があります。近年はこうした「言葉で説明できる欠陥の特徴」を扱えるVLM/AIを、撮像設計と一体で組む選択肢も出てきました。ただしいずれも、良い画像が撮れていることが前提です。
私たちが撮像から相談を受けるときも、順番は常に「まず写す、次に判定」です。元キーエンス画像処理事業部の現場知見と、VLM・Jetsonエッジ・産業用カメラ・現場ライティングを組み合わせて、この順番を崩さずに設計することを大切にしています。
最後に、フィルムのキズ検出で見逃しにつながりやすい落とし穴を整理します。どれも「装置の性能」ではなく、その手前の前提が崩れていることに起因しがちな点です。
ここまでを、明日から現場で試せる順番にまとめます。大がかりな投資の前に、いまある材料と装置でできる確認から始めるのが、遠回りに見えて確実だと考えます。
まず(1)見逃した傷の現物サンプルを用意し、その位置の画像を等倍で拡大して、人の目で傷が見えるかを確認します。次に(2)見えないなら照明を変えて撮り直す——明視野だけでなく暗視野・ローアングル・方位違いを試し、傷が最も浮く光を探します。そのうえで(3)速度・分解能・同期を確認します。露光中の移動画素数の概算、最小傷幅と画素の関係、エンコーダ同期の有無を一つずつ潰していきます。
傷が安定して写る条件が見つかって初めて、閾値や特徴量、AIによる判定の設計に進みます。ここで初めて「精度」の議論が地に足のついたものになります。写す条件が固まっていないうちに判定を作り込むと、条件が変わるたびに作り直しになりがちです。
とはいえ、フィルムの材質・光沢・傷の種類は現場ごとに千差万別で、どの光で写るか・どの分解能が要るかは、最終的には現物で撮ってみないと分からない部分が正直に言って残ります。ここは一般論だけでは埋めきれません。もし自社の材料で「そもそも写るのか」から確かめたい場合は、PoC・検査方式設計の相談で、実際の材料サンプルを撮って検出可否を切り分けるところから始める方法があります。まずは相談する形で、見逃している傷の現物を起点に話すのが、最短だと考えます。
最初に、見逃した傷の位置がわかる現物サンプルを用意し、その部分の取得画像を等倍(100%表示)で拡大して、人の目で傷が見えるかを確認することをおすすめします。人が拡大しても見えなければ撮像(照明・速度・分解能・同期)の問題、人には見えるのに装置が拾えないなら判定側の問題、と切り分けられると考えられます。縮小表示だと細い傷が消えるため、原寸での確認が出発点になります。
浅いキズは色や明るさをほとんど変えず、正反射を受ける明視野では背景に埋もれやすい傾向があります。斜め浅い角度から光を当てて正反射を外す暗視野(ダークフィールド)やローアングル照明では、傷の縁が散乱光で線として浮かぶことがあります。また傷には向きがあり、照明の方位を変えると写り方が変わります。実際の材料で複数の光を試し、傷が最も際立つ条件を探すことが有効と考えられます。
露光時間中に材料が流れ方向へ動くことで像がにじむ、モーションブラーが一因として考えられます。細い傷は露光中に1画素以上動くとぼやけてコントラストが落ち、消えてしまいます。まず現在の速度と露光時間から、露光中に材料が何画素動くかを概算してみると切り分けの手がかりになります。短時間発光やエンコーダに合わせたライン同期の検討が対策の方向になりうると考えられます。
連続材を1ラインずつ積み上げて撮るラインスキャンでは、搬送速度の変動をエンコーダで伝えて材料が一定量進むごとに1ライン撮る同期を取らないと、速度ムラで像が伸び縮みし、最悪は撮像の隙間に傷が抜けることがあります。等倍表示で縦横比の崩れや周期的な濃淡ムラが見えるなら、同期の乱れを疑う価値があります。安定した傷検出のためには同期を取ることが望ましいと考えられます。
透明・半透明材では、手前の面・裏の面のキズと背後の背景が同時に写り込み、どれが本当の欠陥かを分けにくくなるためと考えられます。異物・穴・厚みムラなど光の通り方を変える欠陥は裏から光を通す透過照明が、表面キズは反射照明が向く場合が多く、両方を1つの光学系で完璧に捕まえるのは難しいことがあります。欠陥の種類ごとに、どの光で写すかを分けて設計する考え方が現実的と考えられます。
フィルムのキズが見逃されるのは、多くの場合そもそも画像に写っていないことが原因と考えられます。どの光で・どの分解能で・どう同期すれば写るかは、最終的には現物で撮ってみないと分かりません。実際の材料サンプルを起点に、検出可否の切り分けから一緒に確かめられます。
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