CLEANROOM

クリーンルームのエネルギー監視|空調・ファンフィルタの電力を可視化

クリーンルームの電気代は「品質を守るための必要経費」として長らく見直しの対象外に置かれてきました。しかし空調・ファンフィルタ・除湿の常時運転は、拠点全体の電力の中でも大きな塊です。何を計測し、どのデータと紐付け、どの原単位で評価すれば、清浄度を落とさずに無駄だけを削れるのか。その道筋を整理します。

2026-06-27 / 最終更新 2026-06-27 / 監修:嶋野(元キーエンス画像処理事業部 開発エンジニア)/ 読了時間:約13分
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クリーンルームの電力は空調(外調機・チラー)・ファンフィルタユニット(FFU)・除湿が常時稼働する構造で消費されます。総量だけを見ても改善点は見えにくく、設備別の内訳と時間帯別の推移に分解して初めて「削れる余地」が輪郭を持つと考えられます。
02
電力データ単体では判断できません。清浄度(差圧・パーティクル)・温湿度・生産の稼働/非稼働を同じ時間軸で紐付けることで、品質要件を割らずに運転を緩められる時間帯やゾーンが見えてくる可能性があります。まずは現物での計測が出発点になります。
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非稼働夜間・週末のFFU風量やセットポイントの見直し、ゾーン別制御は着眼点になりえますが、清浄度回復時間やリスクは現場ごとに異なります。小さく計測し、効果を原単位で検証しながら広げる進め方が現実的だと考えます。
― 目次
  1. 背景と課題
  2. 電力が消える構造
  3. 何を計測し紐付けるか
  4. 原単位で評価する
  5. 改善と効果検証
  6. 落とし穴
  7. 進め方のロードマップ
― 01 / 背景と課題

「品質のための必要経費」を、なぜ今見直すのか

クリーンルームを持つ工場では、空調とファンフィルタユニット(FFU)が24時間止まらずに回り続けています。清浄度・温湿度を保つことは品質そのものであり、電気代は「守るために払うコスト」として長く聖域扱いされてきました。ところが電力単価の上昇が続く中で、この常時運転の塊が拠点全体の電気代に占める比重は無視しにくいものになっています。半導体・電子部品・医薬・食品・化粧品など、クリーンルームを抱える現場では共通の悩みだと考えられます。

背景には制度的な圧力もあります。省エネ法に基づくエネルギー使用量の報告義務や原単位の年平均改善の努力目標、GX・カーボンニュートラルの流れの中でのCO2算定の要請です。具体的な適用範囲や数値の基準は改正が重なっているため、所管省庁の最新の公表資料でご確認いただくのが確実ですが、「使用量を把握し、改善の説明ができる状態」を求められる方向にあることは確かです。

現場が抱える具体的な困りごと

現場の声を分解すると、いくつかのパターンに整理できます。第一に「クリーンルーム全体では電気を使っているのは分かるが、空調なのかFFUなのか除湿なのか、内訳が分からない」。第二に「夜間や週末、生産していない時間もフル稼働している気がするが、下げてよいのか判断できない」。第三に「本社や監査から削減を求められても、清浄度を割るリスクが怖くて手を付けられない」。いずれも、データが総量でしか見えていないことに根がある課題だと考えられます。

― 02 / 論点整理

クリーンルームで電力が消えていく構造を分解する

改善点を探す前に、どこで電力が消費されているのかを構造として押さえる必要があります。クリーンルームの消費は大きく、(1)外調機・空調機による給気の温湿度調整、(2)チラー・冷凍機による冷熱の製造、(3)FFUによる室内の循環送風とろ過、(4)除湿・加湿、(5)排気・差圧維持、に分けられます。この中で常時・大電力なのが空調系とFFUで、ここが全体を大きく左右すると考えられます。

FFUは「台数×常時」で効いてくる

FFUは1台あたりの消費電力は大きくなくても、天井一面に多数敷き詰められ、しかも止まらないため、積み上がると相当な塊になります。清浄度クラスを保つための風速・換気回数が要件として決まっており、そこを下げることは品質に直結します。だからこそ「一律に絞る」のではなく、時間帯・ゾーン・生産状態に応じて“落としてよい局面”を見極める発想が要点になります。

空調は外気条件と負荷で刻々と変わる

空調系は外気の温湿度、内部発熱(装置・人)、生産の稼働状況によって負荷が変動します。ところが多くの現場では、清浄度を守るために余裕を大きく取った固定セットポイントで運転し続けています。負荷が軽い時間帯にも重い時間帯と同じ余裕を持たせていれば、そこに無駄が潜んでいる可能性があります。この「余裕の中の無駄」を見つけるには、電力を負荷と一緒に眺める必要があります。

― 03 / アプローチ

何を計測し、どのデータと紐付けるか

総量の電力量計だけでは、改善行動につながる示唆はほとんど得られません。まず設備別・系統別に電力を分けて計ることが出発点です。分電盤の系統ごとにCTクランプや電力センサーを付け、外調機・チラー・FFU系統・除湿を分離できると、内訳が初めて数字として見えてきます。ここは非稼働時の電力を見つけるという発想とも地続きで、非生産時間の消費を切り出す土台になります。

品質側の指標と同じ時間軸に載せる

電力データが単独では判断材料にならないのがクリーンルームの難しさです。差圧・室内パーティクル(清浄度)・温湿度・そして生産ラインの稼働/非稼働——これらを電力と同じ時間軸で重ねて初めて、「清浄度・温湿度を要件内に保ったまま、電力だけが下がる/上がる」局面が読み取れるようになります。たとえば非稼働の深夜帯に清浄度が十分な余裕を持っているのに、昼間と同じ風量・冷熱を投じ続けているなら、そこは検討対象になりえます。

これらのデータは差圧計・パーティクルカウンタ・温湿度センサー・FFUのインバータ・PLCなど、出所がバラバラです。それを現場で収集・時刻同期し、扱える形に束ねる基盤として、エッジAIによる工場内データ処理のように工場内で完結する構成が向いていると考えられます。清浄度や生産に関わるデータを外部クラウドへ常時送ることに慎重な現場でも、まず手元で可視化と分析を始めやすいためです。

画像・映像という“もう一つのセンサー”

電力とプロセス値に加え、カメラ映像を稼働状態の判定に使える場面もあります。ラインが動いているか、作業者が在室しているか、装置が運転中か——こうした状態を映像から読み取り、電力の増減と突き合わせると、「誰も使っていないのに空調・FFUが全開」といった状況を捉えやすくなります。元キーエンス画像処理事業部の現場知見×VLM×Jetsonエッジ×産業用カメラ×現場ライティングという組み合わせは、この“状態の可視化”を現場に馴染む形で実装する際の引き出しになりうると考えます。

― 04 / 設計の考え方

「総量」ではなく「原単位」で評価する

電力量の総量だけを追うと、生産量が増減しただけで数字が動き、改善したのか外部要因なのか区別がつきません。そこで、生産量や稼働時間あたりの電力=エネルギー原単位で評価する視点が重要になります。原単位の考え方そのものはエネルギー原単位とはで整理していますが、クリーンルーム特有の難しさは「常時運転のベース負荷が大きく、生産量にきれいに比例しない」点にあります。

何を分母に置くか

製品1個あたり、稼働1時間あたり、床面積あたり、あるいはクラス維持のための換気回数あたり——分母の取り方で見える景色が変わります。クリーンルームでは、生産量に連動する変動分と、清浄度維持のために生産の有無に関わらずかかるベース分を分けて捉えると、改善の狙いどころが明確になります。ベースが大きいなら非稼働時間の運転見直しが効き、変動分が大きいなら生産の平準化や装置側の発熱対策が効く、という見立てが立てられる可能性があります。

拠点や部屋が複数ある場合、同じ原単位の物差しで並べると比較ができます。同じクラス・似た面積なのに原単位が大きく違うなら、そこには設定や運用の差が隠れているかもしれません。ただし清浄度クラス・製品・外気条件が違えば単純比較はできないため、条件を揃えたうえで差を読むという慎重さが要ります。

― 05 / 運用

見える化で止めず、改善行動と効果検証まで回す

データが揃っても、可視化して満足してしまえば電気代は1円も下がりません。見えた無駄を、清浄度リスクを見極めながら具体的な運転変更に落とし、その効果を原単位で確かめる——このループを回して初めて成果になります。着眼点として現場でよく挙がるのは、次のようなものです。

着眼しやすい改善の切り口

第一に、非稼働の夜間・週末におけるFFU風量や空調セットポイントの緩和です。清浄度が要件に対して十分な余裕を持って回復できる範囲で、換気回数やセットポイントを段階的に下げられないかを検証します。第二に、ゾーン別・部屋別の制御。全室一律ではなく、使っていないゾーンだけ運転を落とす発想です。第三に、外気導入量の最適化や、装置の稼働に合わせた局所排気の連動です。

重要なのは、これらを「やってみた」で終わらせず、変更前後の電力・清浄度・温湿度をデータで突き合わせて効果と安全を確認することです。清浄度の回復時間が要求を満たすか、温湿度が外れないか、製品品質に影響が出ないか。効果検証を伴わない緩和は、品質事故という最も高くつくリスクを抱え込むことになります。この検証の設計こそ、電力だけでなく品質側のデータを同じ基盤に載せる意義だと考えます。

LLM/AIによる報告と異常予兆の支援

継続運用の負担も見過ごせません。省エネ法の報告や社内への月次レポートは手作業だと重く、担当者の時間を奪います。収集したデータからローカルLLMが原単位の推移や前月差、条件をそろえた拠点比較の草案を下書きすれば、報告作成の負担軽減につながる可能性があります。また、いつもと違う電力の立ち上がり方や清浄度と電力の関係の乱れを異常予兆として拾い、フィルタ目詰まりや機器劣化の早期発見に役立てられる余地もあります。いずれも、まずは自社データでどこまで機能するかの検証が前提です。

― 06 / 落とし穴

やってみて初めて分かる、正直な限界と注意点

品質と省エネの両立は理屈では描けても、現場では思わぬ壁にぶつかります。事前に構えておきたい落とし穴を、正直に挙げます。

― 07 / ロードマップ

小さく計測し、確かめながら広げる

最初から全設備・全ゾーンを完璧に計ろうとすると、投資も調整も膨らみ、動き出せません。現実的なのは、対象を絞って小さく始めることです。まず一つのクリーンルーム、あるいは空調系とFFU系統に絞って電力を分離計測し、そこへ差圧・温湿度・稼働を重ねる。数週間から数ヶ月データを取り、非稼働時間帯や余裕の中の無駄を洗い出す——ここまでが第一段階です。

次に、見えた無駄に対して安全な範囲で運転変更を試し、清浄度と電力の変化を突き合わせて効果と品質影響を検証します。効果が確認できたら、条件の近いゾーンへ慎重に展開し、原単位での評価と報告を仕組み化していく。この一連を、対象を絞って設計するのが小規模PoCから始める相談の狙いです。いきなり大きな投資判断をせず、自社の現物で「本当に効くか」を確かめてから広げられます。

クリーンルームの電気代は、品質という制約があるからこそ手を付けにくく、だからこそ内訳を見える化して原単位で語れるようにする価値が大きい領域だと考えます。まずは客観的な把握と現物での計測が出発点です。何から計ればよいか迷う段階からでも、相談することで、対象設備の絞り込みと計測設計の第一歩を一緒に描けます。

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― FAQ

よくある質問

クリーンルームで最も電力を消費するのはどの設備ですか?

一般には空調系(外調機・チラーによる温湿度調整と冷熱製造)と、天井一面に多数配置されるファンフィルタユニット(FFU)が常時・大電力を消費すると考えられます。ただし清浄度クラス・面積・製品・外気条件によって内訳は変わるため、実際の比率は設備別の計測で確認するのが確実です。まずは系統ごとに分離して計ることをおすすめします。

清浄度を守りながら省エネする、そんな両立は可能ですか?

品質要件を割らずに削れる余地がある可能性はありますが、現場ごとに異なり断定はできません。着眼点として、非稼働の夜間・週末の風量やセットポイントの緩和、ゾーン別制御などが挙げられます。ただし清浄度の回復時間や品質影響を必ずデータで検証したうえで進める必要があります。効果検証を伴わない緩和は品質リスクを抱えるため避けるべきだと考えます。

何から計測を始めればよいですか?

まず総量ではなく、分電盤の系統ごとに電力を分けて計ることが出発点になります。そのうえで差圧・パーティクル(清浄度)・温湿度・生産の稼働状態を同じ時間軸で紐付けると、判断材料になります。対象を一つのクリーンルームや空調・FFU系統に絞って小さく始め、数週間から数ヶ月データを取る進め方が現実的だと考えられます。

省エネ法やCO2算定の観点で、どこまで対応が必要ですか?

エネルギー使用量の把握・報告や原単位の改善、CO2算定の要請が強まる方向にあることは確かですが、具体的な適用範囲・基準値・排出係数は改正が重なっています。過去の記憶で判断せず、所管省庁の最新の公表資料でご確認ください。データを把握し改善を説明できる状態を整えておくことが、制度対応の土台になると考えます。

データを外部クラウドに送ることに不安があります。

清浄度や生産に関わるデータの外部送信に慎重な現場は少なくありません。工場内で収集・分析まで完結するエッジ構成であれば、データを手元に置いたまま可視化と検証を始めやすいと考えられます。まずは限られた対象で計測し、自社データでどこまで示唆が得られるかを確かめてから、範囲や連携方式を判断する進め方が安全です。

― REVIEWED BY
嶋野(元キーエンス画像処理事業部 開発エンジニア)
キーエンス画像処理事業部での実務経験をもとに、産業用カメラ・照明・光学系・検査装置の開発に従事し、現在はNsightの技術コンテンツ監修を担当。プロフィール詳細 →

クリーンルームの電気代、内訳から見える化しませんか?

空調・FFU・除湿の設備別電力を、清浄度や温湿度と紐付けて可視化する第一歩を、対象を絞って一緒に設計します。品質を守りながら削れる余地があるかは、現物での計測から確かめるのが確実です。

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