表面をどれだけ精密に撮っても、素材の内側で起きている不良は原理的に写りません。鋳造巣・はんだボイド・電池の内部短絡・溶接の内部欠陥は、透過という別の物理でしか見えないことがあります。本稿では、X線・CTによる内部検査を「いつ・何のために選ぶのか」という上流の問いから整理します。
外観検査を突き詰めていくと、必ずぶつかる壁があります。表面はどれだけ精密に撮っても問題がないのに、市場や次工程で不良が発覚する——というケースです。鋳物のリークテストで漏れる、はんだ接合部が温度サイクルで割れる、電池が使用中に発熱する。これらに共通するのは、不良の原因が製品の「内側」にあり、可視光カメラでは原理的に写らないという点です。
背景には社会的な圧力もあります。EV・蓄電デバイスの普及で電池セルの内部品質保証が事業リスクに直結するようになり、自動車の軽量化に伴う鋳造・ダイカスト部品の内部健全性、パワー半導体やパワーモジュールのはんだボイド管理など、「壊れてからでは遅い」領域が増えています。同時に、熟練検査員の高齢化と人手不足が進み、目視やサンプル破壊検査だけに頼る体制は限界に近づいていると考えられます。
多くの現場は、まず可視光の外観検査を強化する方向で改善を進めます。それ自体は正しい一手ですが、内部欠陥に対しては打ち手として届きません。傷やムラの検出精度をいくら上げても、素材の内部にある空隙(す)や剥離、異物は表面像に現れないからです。ここで必要になるのが、光ではなく透過という別の物理——X線・CTによる内部検査という選択肢になりうると考えます。
内部検査を検討する前に、まず「何を見たいのか」を欠陥の種類まで分解することが重要だと考えられます。内部欠陥と一口に言っても、密度が周囲より低い空隙系(鋳造巣・ブローホール・はんだボイド・剥離)と、密度が異なる異物混入系、そして形状・位置のズレ(部品の欠品・浮き・断線・電池の内部構造のズレ)では、必要な解像度も撮り方もまったく異なります。
X線透過の基本原理は、物質を通り抜ける際の吸収の差を像にすることです。つまり周囲との密度差・厚み差があるものは写りやすく、逆に密度がほとんど同じもの——たとえば樹脂の中の同系樹脂異物や、ごく薄い剥離——は写りにくい傾向があります。異物検査でX線と画像検査をどう使い分けるかは、食品分野を例にしたX線と画像検査の使い分けで整理していますが、この「密度差で見る」という原理は工業部品でも共通します。
実務では、現に流出している不良や次工程クレームを一つひとつ「その不良は表面に痕跡があるか、内部だけか」で仕分けることをおすすめします。表面に痕跡があるなら可視光の高精細撮像で捉えられる可能性があり、痕跡がまったくないなら透過系を検討する、という分岐です。この切り分けを飛ばして「とりあえずX線」と進めると、コストに見合わない結果になりかねないと考えられます。
内部検査には大きく二つの手法があります。一つはX線透過(2次元)で、対象に一方向からX線を当て、透過像を撮る方法です。もう一つがCT(Computed Tomography)で、対象を回転させながら多数の透過像を撮り、そこから3次元の断面情報を再構成します。両者は得意領域が異なり、どちらが上位という関係ではありません。
X線透過は一枚撮れば結果が得られるため、比較的高速で、全数のインライン検査に向く可能性があります。一方で、透過方向にある構造が像の上で重なるため、奥行き方向のどこに欠陥があるかは分かりにくく、複雑な立体形状では欠陥が他の構造に隠れることがあります。斜め透過や複数方向からの撮像で緩和する工夫はありますが、原理的な限界として理解しておく必要があると考えます。
CTは重なりの問題を解消し、欠陥の位置・大きさ・体積を3次元で定量できるのが強みです。鋳巣の体積率、ボイドの直径分布、内部部品の位置ズレなどを数値で扱えます。反面、多数枚の撮影と再構成計算が必要なため一個あたりの時間が長く、全数検査より抜き取り・工程能力の確認・不良解析(なぜ壊れたかの原因究明)に向くことが多いと考えられます。量産条件(タクト・数量)から逆算し、X線透過を全数、CTを定期的な精査に、と組み合わせる設計が現実的になりうると考えます。
内部検査でもっとも見落とされがちなのが、撮像そのものの設計です。どれほど優れた解析アルゴリズムを用意しても、透過像に欠陥のコントラストが出ていなければ判定はできません。可視光の外観検査でライティングが命であるのと同じく、X線検査では管電圧・管電流、露光、対象の向き(透過方向)、拡大率(焦点と対象と検出器の距離)といった撮像条件が、欠陥が「見えるか見えないか」を左右します。
平たいボイドや剥離は、面に対して垂直に透過するとほとんど写らず、面に沿って(エッジオン方向で)透過すると急に見えることがあります。つまり同じ欠陥でも、対象をどの向きで撮るかで検出可否が変わりうるということです。この向きの最適化は、現物を実際に何方向かで撮ってみて初めて分かる部分が多く、机上のスペックだけでは決めきれないと考えます。
微小なボイドを見るには拡大率を上げたい一方、拡大すると視野が狭まり、検査時間や位置決めの負担が増えます。またコントラストを稼ぐために管電圧を下げると透過力が落ち、厚い部位が写らなくなる、といった綱引きが常に発生します。Nsightは、元キーエンス画像処理事業部で撮像設計を担ってきた知見を軸に、可視光・X線を問わず「まず現物が像として分離できる条件を探す」ことを重視しています。ソフトとハードを一体で設計する考え方はAI画像検査パッケージとして整理しています。
内部欠陥の判定は、「写す(撮像)」と「判る(解析・判定)」という二つの課題に分けて考えると整理しやすくなります。透過像やCT断面が得られたあと、そこから欠陥を検出し、良否を判定する段階で画像AIや画像処理が働きます。ここでの論点は、ルールベースの計測(しきい値・面積・寸法)とAIによる判定のどちらが適するか、という配分です。
ボイド率やす(巣)の面積・直径のように、規格として数値基準が定まっている項目は、計測ベースの処理のほうがトレーサビリティを取りやすく、しきい値の説明もしやすい傾向があります。判定根拠を顧客監査や社内基準に対して説明できることは、品質保証の現場では大きな価値になりうると考えます。
一方、典型パターンに当てはまらない未知の異常、背景構造が複雑で単純なしきい値では切り分けられないケースでは、VLMを含む画像AIが選択肢になりうると考えます。ただしAIは学習に用いた不良の範囲でしか安定せず、内部欠陥は発生頻度が低くサンプルが集まりにくいという難しさがあります。良品基準からの逸脱で捉える発想や、既存の計測と組み合わせる設計が現実的になりうると考えます。方式そのものの見極めは、FA・外観検査の自動化の観点も交えて検討することをおすすめします。
X線・CTを導入する際は、装置の性能だけでなく、放射線を扱うことに伴う法規・安全管理の前提を押さえる必要があります。日本では放射線に関する規制が複数の法令にまたがり、装置の区分や使用形態によって求められる管理・届出・作業者の被ばく管理などが異なります。具体的な適用範囲・数値基準は制度改正もあるため、所管省庁の最新の公表資料でご確認ください。
生産ラインに組み込む遮蔽型のインラインX線装置と、検査室に据え置くCT装置とでは、設置場所・遮蔽・作業動線・メンテナンス性の要件が変わります。導入検討の段階から、装置単体だけでなく「どこに置き、誰が運用し、どうトレーサビリティを残すか」まで含めて設計しておくと、後戻りが少なくなると考えられます。
内部検査は「良否をどの基準で切るか」が製品安全に直結するため、判定ロジックだけでなく、撮像条件・判定結果・逸脱時のフローを記録として残す設計が重要になりうると考えます。特に電池・自動車部品など安全性が問われる領域では、後から「なぜこの個体を良と判定したか」を追える体制が信頼につながると考えます。
内部検査は期待が大きい分、想定と現実のギャップも生じやすい領域です。過度な期待でも過度な悲観でもなく、限界を正直に踏まえて進めることが、結果的に最短になりうると考えます。代表的な落とし穴を挙げます。
内部検査の検討は、装置スペックの比較から入るより、まず自社の現物・現不良をX線/CTで実際に撮り、「その欠陥が像として分離できるか」を客観的に確かめるところから始めるのが堅実だと考えられます。見えなければどんな高性能装置でも判定できず、見えるなら次に速度・コスト・運用の設計に進めます。
(1)流出・クレーム不良を「表面か内部か」で仕分け、内部欠陥の候補を特定する。(2)代表的な良品・不良品の現物を用意し、X線透過とCTで複数の透過方向・条件で撮り、欠陥が見えるかを確認する。(3)見える条件が確定したら、量産タクト・数量から全数X線+抜き取りCTなどの構成を設計する。(4)判定を計測ベースとAIでどう配分するか、記録・トレーサビリティまで含めて詰める——という順序です。
この「まず見えるかを確かめる」フェーズは、装置導入の可否そのものを決める分岐点になりうるため、方式が固まる前に小さく検証しておく価値が大きいと考えます。NsightではPoC・検査方式設計の相談として、可視光・X線・CTを含めた検査可否の見極めから伴走しています。まずは現物を持って相談するところから始めていただければと考えます。
X線透過は一方向から撮る2次元の透過像で、比較的高速なため全数検査に向く可能性があります。CTは対象を回転させて多数の像から3次元の断面を再構成する手法で、欠陥の位置・大きさ・体積を定量できますが一個あたりの時間が長く、抜き取りや不良解析に向くことが多いと考えられます。目的と量産条件で使い分ける考え方が現実的です。
必ずしもそうとは言えません。X線は周囲との密度差・厚み差を像にする原理のため、同系材料の異物や極薄の剥離のように密度差が小さいものは写りにくい傾向があります。また平たいボイドは透過方向によって見えたり見えなかったりします。見えるかどうかは現物を実際に複数条件で撮って確認することが前提になりうると考えます。
不良の原因が表面にあるか内部にあるかによります。傷・ムラ・形状など表面に痕跡が出る不良は可視光の外観検査で捉えられる可能性がありますが、鋳造巣・はんだボイド・内部剥離のように表面に痕跡が出ない不良は原理的に写りません。両者は競合ではなく役割分担で、まず不良を表面か内部かで仕分けることをおすすめします。
使える場面はありますが万能ではありません。ボイド率や巣の面積など数値基準が定まる項目は計測ベースの処理がトレーサビリティを取りやすく、典型パターンに当てはまらない異常や複雑な背景では画像AIが選択肢になりうると考えます。ただし内部欠陥はサンプルが集まりにくいため、良品基準や既存計測と組み合わせる設計が現実的になりうると考えます。
放射線を扱うため、装置の区分や使用形態に応じて管理・届出・作業者の被ばく管理などが求められる場合があります。適用範囲や具体的な数値基準は法令や制度改正によって変わりうるため、所管省庁の最新の公表資料でご確認いただくことをおすすめします。導入検討時は装置単体だけでなく設置・遮蔽・運用体制まで含めて設計しておくと後戻りが少ないと考えられます。
表面画像で捉えきれない不良は、X線・CTによる内部検査が解の一つになりうると考えます。まずは現物・現不良を実際に撮り、欠陥が像として分離できるかを客観的に確かめるところから。可視光・X線・CTを含めた検査方式の見極めを伴走します。
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