現場の悩みから考える

果物・野菜の傷・熟度を画像で選果する省人化の進め方

「人が目で見て等級を決めているが、担当者によって基準がぶれる」「収穫最盛期は人が集まらない」——選果場の悩みは深いです。この記事では、傷や熟度を画像で判定して選果を省人化するときに、まず何を確かめ、個体差をどう設計に織り込むかを、現場の手触りに沿って整理します。

2026-09-06 / 最終更新 2026-09-06 / 監修:嶋野(元キーエンス画像処理事業部 開発エンジニア)/ 読了時間:約13分
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選果の省人化は「傷・変色・熟度・サイズ」を一括りにせず、それぞれ検出のしやすさと基準の決めやすさが異なることを分けて考えるのが出発点になると考えられます。傷は撮像と照明、熟度は色・柄の許容範囲設計が要点になりやすいです。
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農産物は同じ品種でも個体差が大きく、工業部品のような一律基準が当てはまりません。「正常の幅」をどこまで許容するかを人の等級判定と突き合わせて言語化・データ化することが、判定の安定につながると考えられます。
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いきなり全ラインの自動化を狙わず、まず現物のサンプルで撮像・判定の可否を小さく検証し、人の判定とどれだけ一致するかを客観的に把握することが、現実的で失敗の少ない第一歩になりうると考えます。
― 目次
  1. 背景と課題
  2. 選果の何が難しいか
  3. 画像で何が見えるか
  4. 個体差の許容設計
  5. 撮像と照明の設計
  6. 運用と等級の合わせ込み
  7. 落とし穴
  8. 進め方のロードマップ
― 01 / 背景と課題

人が集まらず、基準もぶれる——選果場が抱える二重の悩み

果物や野菜の選果場では、収穫最盛期にどっと入荷が集中します。ところがその時期に限って、選果ラインに立つ人が集まらない。地域の高齢化や農繁期の重なりで、経験のある選果員ほど確保が難しくなっている——という声を多く聞きます。人手が足りないと、処理が追いつかず出荷が遅れ、鮮度の落ちた状態で市場に出さざるを得ない、という悪循環にもつながりかねません。

もう一つの悩みが、等級判定のばらつきです。傷の程度、色づき、サイズをどの等級に振り分けるかは、多くの現場で熟練者の「目」に依存しています。同じ玉でも、担当者が違えば秀と優が入れ替わる。午前と午後で目が疲れて基準が甘くなる。こうした揺らぎは、出荷先からのクレームや、生産者への還元価格の不公平感につながることがあります。

「だから画像で自動化したい」と考えるのは自然な流れです。ただ、農産物の選果は工業製品の外観検査とは事情が違う部分が多く、そのまま同じやり方を持ち込むとつまずきやすい領域でもあります。この記事では、まず何が難しいのかを分解したうえで、現実的に省人化を進める道筋を整理していきます。

― 02 / 論点整理

「選果」をひとまとめにしない——4つの判定を分けて考える

選果と一言で言っても、実際には性質の異なる複数の判定が同時に行われています。ざっくり分けると「傷・欠陥の有無」「変色・病斑」「熟度(色づき・柄)」「サイズ・形状」の4つです。これらは検出のしやすさも、基準の決めやすさも大きく異なります。ひとまとめに「AIで選果」と考えると、易しい部分と難しい部分が混ざって、全体が難しく見えてしまいます。

傷・欠陥は「見えるか」が勝負

打ち傷、擦れ、割れ、虫食い穴などは、そもそも撮像でその欠陥が写るかどうかが最大の論点になります。表面の凹凸や色の変化として現れる傷は、照明の当て方次第で見えたり消えたりします。逆に言えば、適切な撮像・照明が組めれば比較的判定しやすい対象と考えられます。

熟度・サイズは「基準の合意」が勝負

一方、熟度やサイズは「見える/見えない」ではなく、どこで等級を切るかという基準の問題です。トマトの色づき何割で秀とするか、玉の直径何ミリでLとMを分けるか。ここは技術以前に、現場の等級基準そのものを数値やサンプル画像として言語化できるかが鍵になります。人の頭の中にある暗黙の基準を、そのまま自動化はできないからです。

― 03 / アプローチ

画像とAIで実際に何が見えるのか

産業用カメラで撮像した画像から、色・面積・位置・テクスチャといった特徴を捉えられます。近年はAI画像検査パッケージのように、撮像・照明・判定を一体で設計するアプローチが取りやすくなり、従来のルールベース画像処理では扱いにくかった「見た目の総合判断」に近い判定にも踏み込めるようになってきました。とはいえ万能ではなく、対象ごとに向き・不向きがあります。

傷・変色の検出

表面の打ち傷や病斑は、周囲との色・明るさ・質感の違いとして現れます。学習ベースの判定は、こうした「正常な表面とは違う」パターンを捉えるのに向いていると考えられます。ただし傷にも許容できる浅い擦れと、はじく必要のある深い割れがあり、その線引きは人の等級基準に合わせて調整する前提になります。

熟度・色づきの判定

色づきは画像の色情報から定量化しやすい対象です。ただし農産物の色は、同じ熟度でも個体や品種、栽培条件でかなり幅があります。加えて、照明の色温度がわずかに変わるだけで見かけの色がずれるため、照明の安定と基準サンプルの管理が判定精度を左右します。VLMのように文脈を含めた判断が得意な手法は、単純な色しきい値では拾いにくい「柄の入り方」「まだら具合」の評価に可能性があると考えますが、これも現物での確認が欠かせません。

サイズ・形状の計測

サイズは校正した撮像系があれば比較的安定して計測しやすい対象です。歪んだ形、二又、変形といった形状異常も、標準的な形からの逸脱として捉えられます。ここは4つの判定の中では自動化の見通しが立てやすい部類と考えられます。

― 04 / 設計の考え方

個体差をどう許容するか——「正常の幅」を設計する

農産物の選果が工業検査と決定的に違うのは、個体差の大きさです。工業部品なら「規格通りかどうか」で正常・異常を切れますが、果物や野菜は一つとして同じ形・色のものがありません。ヘタの向き、自然な色ムラ、品種本来の凹凸——これらを欠陥と誤検出すると、良品まではじいて歩留まりを落としてしまいます。

「正常」を先に定義する

傷や異常を定義する前に、まず「これは正常」と言える個体の幅を集めることが重要と考えられます。自然な色ムラ、許容範囲のヘタ跡、品種特有の形。これらを正常サンプルとして十分に集めておかないと、判定は正常の多様性を捉えきれず、少し変わった良品をすぐにはじいてしまいます。正常の幅を広く・正確に捉えることが、農産物では特に効いてきます。

等級ごとに閾値を分けて調整可能にする

秀・優・良のような等級は、季節や作柄、出荷先の要望で基準が動くことがあります。したがって判定は「一度決めたら固定」ではなく、現場が閾値や許容範囲を調整できる余地を残す設計が現実的です。今日の作柄なら少し甘めに、この出荷先には厳しめに、といった運用の柔ら�さが、現場に受け入れられるかどうかを分けると考えられます。

― 05 / 撮像と照明の設計

「写らないものは判定できない」——撮像・照明が土台

どれほど優れた判定ロジックでも、傷が画像に写っていなければ検出はできません。選果の自動化で最初につまずきやすいのが、この撮像・照明の設計です。ここは元キーエンス画像処理事業部で培った現場ライティングの知見が効く領域でもあります。

全周を見る難しさ

果物は球体に近く、傷はどの面に出るか分かりません。一方向から撮っただけでは裏側の傷を見逃します。回転させながら複数枚撮る、複数カメラで囲む、といった撮像系の工夫が必要になり、ここがライン設計の難所になります。処理速度(1秒あたり何玉流すか)との兼ね合いも、この段階で詰めておく論点です。

照明で傷を「浮かせる」

浅い打ち傷や擦れは、正面から均一に照らすと表面に溶け込んで見えなくなります。斜めから当てて陰影を作る、拡散光で光沢のテカりを抑えるなど、対象と欠陥の種類に合わせた照明設計で初めて傷が「浮いて」見えるようになります。表面がテカる果物、粉を吹く果物、濡れて反射する野菜——それぞれ照明の答えが違うため、現物で試すことが前提になります。

撮像と照明は判定ロジック以上に成否を分けることが多く、ここを軽く見た検討は後で行き詰まりがちです。逆に、ここが決まれば省人化の見通しは一気に立てやすくなると考えられます。

― 06 / 運用

人の等級判定と「合わせ込む」プロセス

自動判定を導入しても、初日から人と完全に一致することはまずありません。むしろ大切なのは、人の等級判定と自動判定のズレを見える化し、少しずつ合わせ込んでいく運用プロセスを持つことです。この考え方はagriculture produce grading aiagriculture labor shortage grading automationでも触れている、農産物特有の進め方です。

最初は人と併走させる

導入初期は、自動判定の結果を人が確認する併走運用が現実的です。自動で「はじいた」ものを人が見て、行き過ぎた除外がないかを確認する。逆に自動で「通した」ものに見逃しがないかをサンプルで確認する。このズレの記録が、閾値調整と、必要なら追加学習の材料になります。

季節・作柄の変化に追随する

農産物は年や天候で色づきや傷の出方が変わります。ある年の基準がそのまま翌年に通用するとは限りません。定期的に基準サンプルを更新し、判定のずれを点検する運用を織り込んでおくことが、長く使い続けるうえで欠かせないと考えられます。「入れて終わり」ではなく「育てながら使う」姿勢が現実的です。

― 07 / 落とし穴

検討でつまずきやすいポイント

選果の省人化でよく行き詰まる点を、正直に挙げておきます。事前に知っておくだけで、無駄な回り道を減らせると考えられます。

― 08 / ロードマップ

小さく確かめてから広げる

最後に、現実的な進め方を整理します。いきなり全ラインの自動化を目指すのではなく、まず自分たちの対象で「写るか・分けられるか」を小さく確かめることが、失敗の少ない第一歩になりうると考えます。こうした検証を計画的に進めるにはPoC・検査方式設計のように、検査可否と方式を先に小さく検証してから本格化する進め方が向いています。

ステップ1:現物で撮像・判定の可否を確かめる

実際の果物・野菜のサンプルを、正常・各等級・欠陥品まで幅広く用意し、撮像と照明を試します。狙う傷が写るか、熟度の差が色に出るか、サイズが安定して測れるか。ここで見通しが立たなければ、その対象・その欠陥は一度立ち止まって設計を練り直す判断も大切です。

ステップ2:人の判定とのズレを客観的に把握する

次に、自動判定と熟練者の等級判定を突き合わせ、どれだけ一致するか、どこでズレるかを数字で把握します。この一致度こそが、省人化の効果を見積もる土台になります。感覚ではなく客観データで現在地を知ることが、次の投資判断を誠実なものにします。

ステップ3:併走運用から段階的に省人化

見通しが立ったら、まず人と併走する形で導入し、ズレを合わせ込みながら、確信の持てる工程から徐々に人の関与を減らしていきます。最初から無人化を狙わず、確からしいところから省人化していく——この段階的なアプローチが、現場に根づく自動化につながると考えられます。

― 関連

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― FAQ

よくある質問

果物の傷はAIの画像検査でどこまで見分けられますか?

打ち傷・擦れ・割れなど、表面の色や質感の変化として現れる傷は、適切な撮像と照明が組めれば判定しやすいと考えられます。ただし浅い傷は照明の当て方で見え方が変わり、許容する傷とはじく傷の線引きは現場の等級基準に合わせた調整が前提です。まず現物のサンプルで、狙う傷が画像に写るかを確かめることをおすすめします。

熟度や色づきは自動で判定できますか?

色づきは画像の色情報から定量化しやすい対象です。ただし同じ熟度でも個体差や品種差で色に幅があり、照明の色温度のわずかな変化でも見かけの色がずれます。基準サンプルの管理と照明の安定が精度を左右します。まだらな柄など単純な色しきい値で拾いにくい要素は、文脈を含む判断が得意な手法に可能性がありますが、現物検証が欠かせないと考えられます。

個体差が大きい農産物でも過検出を抑えられますか?

農産物は自然な色ムラや品種特有の形など「正常の幅」が広いのが特徴です。欠陥品だけでなく、多様な正常品を十分に集めて正常の幅を正確に捉えることが、良品を誤ってはじく過検出を抑える鍵になると考えられます。等級ごとに閾値を調整できる設計にしておくことも、歩留まりを守るうえで有効です。

導入すれば人はいらなくなりますか?

初日から人と完全一致することはまずなく、当面は人と併走する運用が現実的と考えられます。自動判定のズレを見える化し、季節や作柄の変化に合わせて基準を更新しながら、確信の持てる工程から段階的に人の関与を減らしていく進め方が、現場に根づきやすいです。無人化ではなく段階的な省人化として捉えるのが誠実な見方です。

何から検討を始めればよいですか?

まず実際の果物・野菜のサンプルで、狙う傷や熟度の差が画像に写るか、サイズが安定して測れるかを小さく確かめることが第一歩になりうると考えます。次に自動判定と熟練者の等級判定のズレを数字で把握し、一致度を土台に効果を見積もります。いきなり全ライン自動化を狙わず、客観的な現物検証から始めることをおすすめします。

― REVIEWED BY
嶋野(元キーエンス画像処理事業部 開発エンジニア)
キーエンス画像処理事業部での実務経験をもとに、産業用カメラ・照明・光学系・検査装置の開発に従事し、現在はNsightの技術コンテンツ監修を担当。プロフィール詳細 →

まずは現物のサンプルで「写るか・分けられるか」を確かめませんか

選果の省人化は、狙う傷や熟度が画像に写り、人の等級判定とどれだけ一致するかを確かめるところから始まります。撮像・照明・判定を一体で設計し、農産物特有の個体差を織り込んだ検証を、小さく安全にご一緒します。

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